内容説明
インドで戦争捕虜となったオーストリアの登山家は、収容所を脱走し、想像を絶する過酷な旅のはてに、世界の屋根チベット高原の禁断の都に漂着する。「私は、これほど素朴な信仰心を持つチベット人にはいつも深い羨望の念を覚えた。私自身は生涯を通じて宗教を求めながらついに得られなかったからである。私は、浮世の出来事によって疑惑に陥って右往左往することなく、それを平静に眺めることを、この国で学んだ」。若き日のダライ・ラマの個人教師をつとめた登山家が綴った山岳紀行文学の金字塔。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
金吾
30
紀行文要素が多い自伝です。なかなか知ることが出来ないチベットの自然や風俗、政治を知ることができます。この本を読む限りチベットは漢民族と全く異なる文化であり、政治体制も確立されていることより独立国だと言えますし、中国がしていることは侵略だと思いました。2022/01/05
フミ
19
第2次大戦期にインドのイギリス軍収容所を脱走~チベットのラサまで冒険をして、中国軍の侵攻期まで滞在した登山家さんの自伝です。文字が詰め詰めで情報量が凄く、僕にはかなりの難易度でしたが、読み終えた満足度は凄かったです。特に前半・ラサに到着するまでの艱難辛苦の凄さ、筆者の思い立ったら聞かない頑固さと、チベットで暮らす人々の謙虚さのギャップが印象に残りました。ラサ到着後は、運が良かった…とも思えます。苦労が報われるだけの待遇、そして、筆者が納得いく「ダライ・ラマ」のカリスマ性。またいつか、読み返してみたいです。2024/04/13
ミスターテリ―(飛雲)
19
この一週間、まさに登山家のハリ―と一緒に六千メートル級の峠を越え、零下30度の雪山の中を凍傷と靴擦れに苦しみながら歩いていた。同時にハリ―の自由を求めて前進するその姿に感動する。その精神が後年チベットの独立運動の礎となる。そしてついにダライラマが住んでいるラサにたどり着く。しかしこの作品が貴重なのは、今まで欧米人が知らなかったチベットの人たちの政治、文化、信仰、生活習慣すへてが詳しく書き綴られていることである。しかし中国の侵略によってダライラマ14世はインドへ亡命。ハリ―の7年間の冒険は終わりをつげる。2019/12/12
雨猫
15
映画を観てチベットに興味を持って。映画よりずっと面白かった!映画はダライ・ラマとの交流がメインだが実際はインドの抑留所から脱走しヒマラヤ山脈に沿う形での逃亡にものすごく時間がかかってる。脱走だから装備も食料も不十分な中、過酷な旅を続けた。ハラー氏の歯に衣着せぬ物言いがユーモラス。チベットの文化・風習に驚愕し、ぐんぐん吸収していく様は逞しい。長年世界の屋根で平和に暮らしたチベットがあんなことになってしまったのは非常に残念。ハラー氏のチベットとダライ・ラマに対する深い共感と愛を感じる。☆5つ2015/07/07
ryuetto
14
ヒマラヤ登頂のためにインドに渡った登山家が、戦争が始まったために帰れなくなり、抑留されて、自由を得るために脱走し、安全を求めて中立国チベットを目指したその旅の記録。彼らの旅の過程は波乱万丈な上に、チベットという独特な文化の紹介にもなっていて、著者と一緒に異世界を旅した冒険物語を読んでいるような気分になった。著者が、いかにこの国を愛し、この国で過ごした日々を大切に思っているか、文章から伝わる。この素敵な国が、今でもそのまま平和であればよかったのに、と思わずにはいられない。非常にいい本でした。おすすめです。2017/04/08




