内容説明
キングズマーカムの小さな町で、ある日突然、黒人の少女が消えた。恵まれた中流家庭の娘が最後に顔を合わせたのは、なんと職業安定所の失業アドバイザー。二人の足取りを辿るうち、思いも寄らない殺人事件が発覚する。そしてさらに一人、名もなき黒人女性の遺体が…。一見平穏な田舎町に巣食う失業問題、家庭内暴力、そして人種差別に、お馴染の紳士な名警部ウェクスフォードが挑む!英国ミステリの巨匠レンデルが社会問題に鋭い斬り込みを入れ話題を呼んだ、ベストセラー・シリーズ待望の最新作。
著者等紹介
レンデル,ルース[Rendell,Ruth]
1930年ロンドン生まれ。1964年デビュー以来、CWA(英国推理作家協会)ゴールド・ダガー賞など4回受賞し、英国女流ミステリを代表する作家として高い評価を得ている。彼女の作品は、英国本国はもとより、米国、フランスでも多くの読者を持ち、世界15ヶ国語以上に翻訳されている。英国サフォーク州在住
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感想・レビュー
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bapaksejahtera
11
シリーズ16作目。二人の娘に悩みの尽きない主人公警部の生活を折り込みつつ本作も進む。多くを割くのは管内の職安場面。不況でマトモな職のない中、屯する未熟練の求職者が溢れる。或日相談員女性が殺され見つかる。彼女の面談者の中に、黒人の医師夫婦の薫陶に疲れ、独立を目指す娘がおり、彼女も同時に失踪した。加えて発見された若い黒人女性の死体。物語は序盤丁寧な記述で、小説世界が次第にクリアになり、浮気男の断罪話の小カタルシスもある中、次第に登場人物が複雑に重なり、人種差別男権主義の重い話題が加わって読書が辛くなってくる。2025/05/26
Tetchy
6
“差別”が本書の一貫したテーマになっている。事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。2009/05/06
madhatter
3
元々レンデル作品にはこの傾向が強いが、本作は社会派推理小説と解しうる。あらゆる差別が絡み合って主題を造り上げており、「人種」「性別」など、単一の括りが出来ない。一方、失敗もあったが、斯様に複雑な差別の構造に対して、ウェクスフォードの洞察力は「決まり」過ぎではないか…そんなにすぐに整理がつくのも怖い。なお、恐らくどんな扱いを受けても、題名の由来となった人物から「自分は差別を受ける謂われはない」という意識は消せなかったのだろう。頑張ったよな。故に起こった悲劇であるのが悲しいが。2011/08/01
ネフスキー大通りの秋
2
この人の本は初めて読みました。地味な印象のミステリーで、登場人物も多くて大変でしたが、読後の充実感といったら!このシリーズ、ほかも読みたくなりました。2015/03/01
菱沼
1
再読。ウェクスフォードの娘たちに対する感情がリアルで興味をそそるとともに、この人って案外素直なんだなと思わせる。物語を編み上げている様々な差別意識。先日、とある講義でヒエラルキーの頂点にいるのが白人男性、最下部にいるのが黒人女性だった(過去とは言いきれない部分もあるだろう)という話を聞いた。ノンシリーズは読み返すのが辛いような物語も多いけれど、ウェクスフォードシリーズはときどきは読み返すことができる。2016/12/26