感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
113
ノーベル文学賞を受賞したイエーツの三篇の短劇。表題作の「鷹の井戸」は命の水の湧き出す井戸を求めて、空しく年齢を重ねた老人の嘆きが印象に残る。私の好みは「心のゆくところ」。アイルランドの平凡なブルイン家に異形のものが忍び寄ってくる。キリスト教の力によっても、その異形のものを追い払うことはできない。ここで言う異形のものとは妖精のことで、日本の一般的なイメージである可憐なものではなく、人間を暗闇の世界へ引きずり込む恐ろしい存在である。読み終わった後に、胸の中にぽっかりと黒い穴が開くような恐怖に満ちた劇だった。2015/06/12
かんやん
33
昔、イェーツ編集のケルトのフェアリーテイル集を読んだけど、どれもこれも似たような話(子どもが妖精にさらわれる)ばかりで通読できなかった覚えあり。本書は一幕もの戯曲が三編。こちら側(日常、平凡、堅実)の人間があちら側(非日常、動乱、幻想)へと誘われゆくドラマは一貫している。表題作は、すでにあちら側へ到達してからの物語。伝説の枯れ井戸から不老不死の水が沁み出すのを待つ間に年老いてゆくのである。能の影響を受けた仮面劇で、ワキ、シテ、囃子の役割分担、もはや幽玄の境地であるけど、いささか睡気が滴る。2022/06/16
いやしの本棚
5
松村みね子(片山廣子)訳のイェイツ、初めて読むのだけど素晴らしい。イェイツのすごさなのか、松村みね子の翻訳の幽玄な雰囲気によるものか。 イェイツはケルト文芸復興運動の推進役だったし、彼の作品にはそういう民族運動を鼓舞する意味や、キリスト教とケルトの土着信仰との相克の問題も含まれているのだろうけど、そんなこと忘れさせる松村みね子の訳の美しさ…。2014/05/01
アムリタ
3
日本の能とケルト神話はどこか通じるところがあるのだろうか。地下水脈を辿って行けば繋がるのかもしれない。イエーツの世界はこちらとあちらが交錯しているのか、浮いたり沈んだり見えたり見えなかったり跳んだり潜ったり掴みどころがない。でも魅かれる。飛翔する鷹、地中へ降る井戸。光と闇、神と悪魔。2017/06/01
織沢
2
NHKで鷹の井戸のバレーを演出する芸術家のドキュメンタリーをやっていた。この芸術家というのが、よく知らないからなのだろうが何となく胡散臭く、施す演出もこれまでの作品も前衛っぽい感じで甚だ微妙な感じだったのだが、元の戯曲は何と言ってもイェーツだから期待できると思い読んだ。 否応なくやってくる死を「物語」のように戯画化するのではなく、押し寄せるように或いは襲いかかるように描いているのかなと思う。2020/03/14