内容説明
八歳のとき母が父を刺し殺す現場を目撃した作家の曽我。三十九年前の忌まわしい過去を引きずる彼の許に東京拘置所から一通の手紙が届く。夫を毒殺したとして懲役十年の有罪判決を受けた収監中の関山夏美からのものだった。無実の罪を着せられた自分にどうか力を貸して欲しいと手紙は訴えていた。旧友で夏美の担当弁護士、服部朋子の要請で、曽我はこの事件の控訴審に関わってゆくが…。現行の裁判制度の矛盾を突く緊迫の法廷ミステリ。
著者等紹介
深谷忠記[フカヤタダキ]
1943年東京生。東大卒。本格推理の第一人者として活躍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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James Hayashi
22
針の穴へ糸を通す以上に難しいワザで冤罪を晴らしていく女性弁護士。物語りはこれを縦糸として編まれていくが、横糸としてもう一つの殺人事件も追う。それは30年以上昔に、作家である曽我の母が実父を殺害した事件。人間記憶というものが如何にあやふやであるかという事。ある状態におけば、見ていないものも見たといってしまう。自分も学生の頃、大学であるグループが学生を数日間監禁し洗脳していたという事実。数日にわたる取調室での激しい聴取。人間の精神の弱さなど考慮させられる。2件の真相が結末でわかるが、自分は更に深い谷を見た。2020/06/09
アン
5
人の記憶があてにならないということは、様々な実験で立証されているらしい。その記憶に頼った目撃証言で、罪を着せられる人、罪から逃れる人がいて、冤罪が生まれる。一般市民としては、警察の緻密な捜査を期待するしかない。2017/01/28
kaikoma
0
硬派な法廷ミステリーですね。過去と現在の事件の両面から攻めていく感じが良いです。この時期は真面目な作風の作品が、多かったのだと実感します。過去の記憶をテーマとして言及しているのも好きです。人間、戦慄な記憶ですら曖昧なのですね。2017/06/14
いぬかいつまき
0
幼少期に母親による父親殺しを「目撃」した中年作家が、4年前に起きた看護師の妻による夫殺しの「冤罪事件」に関わりを持つうち、過去の事件の意外な真相が明らかになる。 深谷忠記が近年熱心に取り組む法廷ものミステリーの一つだが、肝心の事件の内容やキャラがあまり魅力的ではないのと、冗長な部分が多いのは残念。作品のメインの「記憶の錯誤」の説得力もいまいち消化不良。 過去の事件の真相は最終章まで明かされないが、それは40年の時を超えた今どうしても解明せねばならないものか? それによって新たに傷付く人も出るだろうに。2019/08/18