内容説明
97本の短編が収録された「N・P」。著者・高瀬皿男はアメリカに暮らし、48歳で自殺を遂げている。彼には2人の遺児がいた。咲、乙彦の二卵性双生児の姉弟。風美は、高校生のときに恋人の庄司と、狂気の光を目にたたえる姉弟とパーティで出会っていた。そののち、「N・P」未収録の98話目を訳していた庄司もまた自ら命を絶った。その翻訳に関わった3人目の死者だった。5年後、風美は乙彦と再会し、狂信的な「N・P」マニアの存在を知り、いずれ風美の前に姿をあらわすだろうと告げられる。それは、苛烈な炎が風美をつつんだ瞬間でもあった。激しい愛が生んだ奇跡を描く、吉本ばななの傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
185
数多く女性作家さんがいる中で、好き嫌い云々ではなく自分の中で別次元に位置する作家さんです。もちろん代表作である『キッチン』や『TSUGUMI』も素晴らしいのですが、初期の頃、作者さんが書きたかったのは、きっとこういう作品だったのかなと(勝手ですが)思う内容でした。とにかく不思議な世界で、なんとも言い表せないのが、うれしくもあり、ある意味残念でもあります。今もなお素敵な作品を書き続けている作者さんですが、今一度初期の頃の作品を手に取り、そのクリアで不思議な世界を堪能してほしいです。やっぱり女性は是非!
おしゃべりメガネ
183
本作も20数年の時を経ての再読です。一時期、凄まじい勢いで私の‘読書欲’を支配した「よしもとばなな」さんですが、今作はおそらく初期の頃の作品において集大成的な位置づけになるのではと。とにかく1文1文はもちろん、一文字一文字でさえ、美しさをいかんなく発揮し、会話の流れや雰囲気にはまったく隙のない確立された「ばななワールド」が立ちはだかります。不思議な人物や出来事が、一つ、また一つと進んでいきますが、その不思議感が全く違和感なく、物語に溶け込んで描き続けるばななさんは、やっぱり他の追随を許さないでしょうね。2015/09/27
ヴェネツィア
129
ランダムに読んできたが、ばなな作品もこれで24作目。これは他の彼女の物語の文体とは明らかに異質だ。「秋が牙をといでいる。時間がたたないなんて錯覚だったというふうに、ある朝突然冷たい風や高い空で思い知る。」―こんな風な表現は、まさしくばななの小説の真骨頂なのだが、語り手の風美をはじめ、他の3人いずれもの人物造形が抽象的で、生活感に乏しいのだ。彼ら同士の関係性もまた、本来は濃密であるはずなのに、希薄感がぬぐえない。近親相姦のテーマもどこか遠い。作家にとって、新しい小説の方向への模索期だったのだろうと思われる。2012/11/25
ひろちゃん
97
呪われた本を訳してた元カレが死んでしまった……。今を懸命に生きている人にオススメの本。たまに死にたくなるような不幸を人それぞれ抱えている。死にたくなるような誘惑をたちきれる健全な心があるかどうか。そんな死にたくなるような物語ってどれだけの威力があるんだろう。そんな物語書きたくないわ2015/10/27
しゅう
91
散文的な短いストーリーから成る小説『N・P』の作者、高瀬皿男は48歳で自殺する。『N・P』の中の98番目の散文を翻訳していた庄司も自殺する。この小説を翻訳していて自殺するのはなんと3人目だ。庄司の恋人、風美がこの物語の主人公。風美は高瀬の忘れ形見の咲と乙彦と交流するようになる。そこで熱狂的なN・Pマニアの存在を知らされることになるのだが…。今回この小説を読むのは4回目で、直近では5年前に読んでいる。吉本ばななの小説の中では一番のお気に入りだ。夏の陽射し、夕景、雨の滴、稲光、激しい風、全てが美しい。好きだ。2025/08/30