内容説明
酒に足をとられ、階段から落ちた老女優の郁代。記憶を失った彼女の部屋にあった32個の腕時計。それは、幼いときに別離した息子の誕生日に買い続けたプレゼントだった。弁護士の美津子が、友人に持ち掛けられた離婚の相談。聞けば、きっかけは保険証だという。若くして、ベストセラー作家となった男の万年筆をめぐるせつない思いで…。身の回りにある10の小物。それを失うことと、得ることのてざわりから、小さいけれど、たくましい人生が甦る。人は人を愛するように物を愛することを伝える、連作小説集。
目次
腕時計
保険証
万年筆
日記帳
座蒲団
乾電池
老眼鏡
庭下駄
蝙蝠傘
自転車
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゼニガメ
5
ありふれた物に染み付いた思い出。生き別れの息子に渡すあてのない腕時計を買う女性、保険証から妻の秘密がバレて離婚になりかけた夫婦、ベストセラー作家の万年筆にまつわる思い出、急死した夫の残した日記帳、座布団三枚の上に座って高飛車な態度の見合い相手の本心、「目覚まし時計の電池が切れた頃に帰ります」その約束を信じて男を待つ女、一年半前に無くした老眼鏡が返ってきた真相、自分を庭下駄に例える女性、婚約者に冷たくフラレた女性が聞いた蝙蝠傘のエピソード、ダメンズワーカーの姉を自転車で迎えに行く弟。温かい話が多かった。2017/06/18