内容説明
「人間荘」に越してきた私が押入れの奥から見つけた1冊のノート。そこには歴代の住人たちの哀しくも恐ろしい人生の記録が記されていた―(「誰にも出来る殺人」)。彼女のため殺人まで犯すほど恋い続けた女性を失った。絶望した男は、残された金で半年ごとに異なる6人の女との情事を愉しみ、死のうと決めるが…(「棺の中の悦楽」)。人間の欲望を見事にえぐり出したノワール・ミステリの傑作。
著者等紹介
山田風太郎[ヤマダフウタロウ]
1922年兵庫県生まれ。東京医科大卒。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞を受賞。その後、58年『甲賀忍法帖』を発表し忍法ブームに火を付けた。2001年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
40
やはり、山風先生は凄い。手垢が付いているような日本語表現なのに、手触りと温度が猛烈に具象的。ピースがドつぼにパチリとはまる。忍法帖が好きでなかっただけに若い頃は手に取らなかった山風、でも推理版は行ける、まさに職人仕事の域だぁ。江戸川、澁澤と言った女性崇拝的ロマンチシズムの世界が好みでない人も多いだろうし、私も好きじゃない・・でも読めてしまうのはこのところ好んでいる洋物ボイルド小説の香りと一にする所以かも。先生が自嘲気味に取り下げている姿勢も読者からすると楽しい理由かも。2014/07/15
北風
34
「誰にも~」はモッサリした推理小説ですが、「棺の中~」は面白かった!ほとんど官能小説ですが、こういう構成もあるんですねえ…。乾いた感じのオチもいい感じでした。少し話が出来すぎてる嫌いもありますけど、今一つ掴み所のない主人公の行動や言動が説得性を持たせてくれてます。2016/03/09
coco夏ko10角
25
『誰にも出来る殺人』折原一の『幸福荘殺人日記』を思い出した、もしかしてこれのオマージュだったのかな。最後の話への繋げ方が面白い。 『棺の中の悦楽』女性も色々…。この結末が、なんとも……2015/12/20
ぐうぐう
22
山田風太郎の才能が炸裂したミステリ。一見独立した短編が積み重なり連作となって長編が形作られ、そして最後の短編ですべてがひっくり返るという、大胆不敵な構造がたまらない。それでいて、人間の奥底に眠る欲望や邪さを炙り出し、それが小説の皮肉とミステリのどんでん返しへと繋がっていく凄さ。これが昭和30年代に書かれたという事実に、さらに驚かされる。この二編の小説が、もし現在に発表されたなら、間違いなく「このミス」上位ランキング作となっていることだろう。いやはや、山風、恐るべし!2013/01/27
うーちゃん
20
清張の「黒い画集」という短編集が好きなのだが、それに似た味わいで面白かった。男と女の悲哀、美醜、滑稽さを痛烈なまでに描き出していて、そこから昭和という時代の 強かで人間臭い一面をも感じることができた。山風氏の ひねりの効いた構成力には脱帽です。「棺の中の悦楽」は、こんなに皮肉な結末を読んだ経験があるだろうかと本気で考えてしまった。大島渚監督により映画化されているらしいが、どんなもんでしょうね。。2013/05/15