内容説明
囚人だって人間だ―と言う原胤昭の言葉が心にかかった四郎助は、いつしか囚人たちが引き起こす事件の内に、彼らの仁義や数奇な人生を見出すようになっていた。そんな中、ある因縁から罠に掛けられた原が命の危機にあると知る。彼を救うべく、四郎助は囚人たちを巻きこんだ大芝居を打とうとするが…。事実と創作を巧みに織り交ぜ、後の“愛の典獄”有馬四郎助の成長と北海道開拓史の一幕を活写した明治群像劇の名著。
著者等紹介
山田風太郎[ヤマダフウタロウ]
1922年兵庫県生まれ。東京医科大卒。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眠中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞を受賞。その後、58年『甲賀忍法帖』を発表し忍法ブームに火を付けた。また、『警視庁草紙』『幻燈辻馬車』等で、開化小説にも新領域を開いた。2001年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sam
49
いつまでも読んでいたい気持ちにさせられる山田風太郎明治ものだが、本作も御多分に洩れず。舞台が監獄、悪業を重ねた囚人たちが次々登場することもあって明治ものにしてはエログロの要素が強いのが目立つがそれは別にどうでもよろしかろう。後年「愛の典獄」と呼ばれた主人公有馬四郎助はもちろん、教誨師の原篤胤、医師の独休庵に加えて五寸釘の寅吉やら牢屋小僧やら異様にキャラの立っている囚人たちが交錯するストーリーはどれも無類に面白く、(毎回同じこと書いてるが)史実と空想が絡み合って全く飽きさせることがない。文句なしの傑作。2023/02/01
キムチ27
11
いやいや、面白いのなんのって。 犬ぞりで氷原を走るなんぞ、日本版ワイルドスペクタクル。 「愛の典獄」こと、有馬四朗助の青年期からの成長期だが、出会う人々が濃い!これでは人間から脱皮して神の領域に入っていくのもむべなるかな。 私でも名を知っている伝記中の偉人の祖先がごろごろ出てくるのが嬉しい。やはり、事を成し遂げるのも「かくの如き血が結集して」溢れ出るのかな・・ しかし、男を超えて、オス!性欲一つにしても、動物の世界。 良くも悪くも100年前の世界は同じ日本人とは思えない人が多いような・・2013/05/01
ぐうぐう
9
山田風太郎の小説のおもしろさは、実在した人物を歴史というシナリオの上に配置させながらも、決して史実に縛られることなく、歴史を軋ませるほどに躍動させているところだ。驚くべきことに、『地の果ての獄』に登場する人物の、そのほとんどが実在するという事実に打ちのめされる。風太郎にとって歴史は、決してひとつではないのだ。2012/08/07
hutaro
8
囚人それぞれのドラマ、四郎助の人間的な成長、原胤昭の存在感(あまり出番ないのに)。どれを取っても面白い。欲を言えば、後書きに書かれていた四郎助のその後について短い話でもいいから、書き足して欲しかった。四郎助は囚人を一人の人間として扱い、「愛の典獄」と呼ばれたというエピソードを。彼が影響を受けた原胤昭は、囚人と同じ気持ちを味わうため自ら囚人と寝食を共にした。当時の囚人の扱いがいかに悲惨なものだったかを考えると、かなり原はぶっ飛んでいたと思う。風太郎先生の本にしては、爽やかな読後感で意外。2019/07/25
たみき
8
明治時代の刑務所が舞台。この時代の話はあまり読んだことがなく新鮮だった。それなりの出の人が囚人になってたりと色々と社会制度が変わっていった明治時代の混沌とした様子が感じられて興味深かった。有馬さんのことは全く知らなかった。明治の刑務所は地獄で重苦しい雰囲気だが、最後はさすが山田さん的な盛り上がりがあり、このバランスはやっぱりさすがだな。大満足。自分にはもっと明治の知識が必要です。2012/06/22