出版社内容情報
少年少女の心を惹きつけ、涙させた珠玉の短篇、初文庫化!
戦場に行く少年の帰りを待つ香苗。別れに手向けた辛夷を支えに、春がいくたびも過ぎていた――表題作をはじめ、健気に生きる武家の家族の哀歓を丁寧に叙情的に描き切った秀逸短篇を収録する初文庫化。
内容説明
江戸末期、戦地に赴く信之助を泣きそうな顔で見送る香苗。再会の願いも空しく時は過ぎ、尼僧になった香苗は救護院に流れ着いた老人の姿に息を呑む―「春いくたび」。貧にして餓死するは武士の本懐なり。亡父の教え通り、最後の一夜を迎える兄妹。しかし、そこに突然激しい剣の音が―「武道宵節句」。昭和の少年少女のために、山本周五郎が心とことばを尽くした短篇の中から時代小説10篇を収録。初文庫化。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903年、山梨県生まれ。横浜市西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。関東大震災後、復職せずに文学修行に努める。29年、「少女世界」に童話や少女小説を発表する。43年、『日本婦道記』が第17回直木賞の候補に推されるが、辞退。『樅ノ木は残った』が毎日出版文化賞に選ばれるが受賞を固辞。『青べか物語』が文藝春秋読者賞に推されたが辞退。67年2月永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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shizuka
53
安定の周五郎さんだった。テンポがよくてさくさく読み進められる。少年少女用なのかな、難解でもないし。けれど周五郎さんが作品を通していつもいつも語りかけている「信念」はしっかりと書かれている。自分も相手も信じる力、諭す力、悟る力、許す力、忍ぶ力。。人間がいとも簡単に投げ捨て勝ちな様々な大切なことを、エンターテインメント小説の中で謳えるのは、周五郎さんならでは。一見、派手で面白さだけを追求したちゃんばら小説みたいなんだけれどね、でもしっかり読むと、ほらね。何かが心に残っている。最も信頼できる小説家。山本周五郎。2016/09/14
南北
46
少年少女向けの短編小説集。とはいえ決して子供向けと侮ることはできない。表題作の「春いくたび」は信じて待つという気持ちの尊さを見事に表現している。作風は違うが三島由紀夫の「豊穣の海」の最後のシーンを思い出した。2021/02/06
シブ吉
46
痛快な短編から始まる作品集に、思う存分堪能しました。やっぱり、山本周五郎さんは良い。それぞれの作品を読了するたびに、身体中に残る静かな余韻にどっぷりと浸れました。貧しい下級武士や、うまく出世の出来ない実力者、裏切り者の汚名を着せられた家族などなど、登場人物たちの置かれた状況はそれぞれ違いますが、逃げずに問題に向き合っていく、その生き様に清々しくなるとともに、「あぁっ、このように生きていきたい」と、強く思わされました。山本周五郎さんは年代を問わず、幅広い方々に読んで貰いたい作家さんです。2013/03/31
のびすけ
32
少年少女小説の作品集。戦前戦中の昭和10年代に書かれた作品ということもあり、忠君愛国、武士道精神、敬う心といったテーマが色濃いが、内容はシンプルで活劇要素もあって読みやすい。少女が活躍する「梟谷物語」「伝四郎兄妹」「峠の手毬唄」、少年を育てる母・叔母の思いが胸に響く「花宵」「おもかげ」が良かった。2023/01/15
タツ フカガワ
12
1話20~30ページの短編を10話収録。もともと少年少女向けに書かれたものらしいが、まったくそんな趣はなく、表題作や『日本婦道記』に通じる作品もあったりして泣かされました。とはいえ半分は新潮文庫に収録されていたもので、初読みでは「だんまり伝九」「峠の手毬唄」がよかった。2019/11/05
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