内容説明
「奇妙な面をしとるわ。猿に似とるわ。チビ猿じゃな」信長は小者志願の色の黒い、かじかんだように小さな若者を見て大笑いした。武士の作法に通じた若者は悪びれず、側用人に答えた。「今川の被官松下嘉兵衛尉が家で士奉公しとりました。父はご先代信秀さまが鉄砲足軽しとりました木下弥右衛門と申します」「名は!」「木下藤吉郎秀吉でございます」「なんじゃとォ!」信長はきびしい目で若者を凝視した。若者はこの時23歳。新しく月代し、柿色の地に輪つなぎ模様を白く抜いた袷に薄縹色の袴をはき、大小を帯びていた。これが、当時どじょう売りの与助と呼ばれた秀吉と信長の出会いであった。