出版社内容情報
白い犬の後を追いかけてきたタロコ族の少年と、自分を売ろうとする父親から逃げてきた少女。山の深い洞穴で二人は出会い、心を交わす。
少年が少女の村に、少女が少年の村へ入れ替わり出ていくのを、巨人は見つめていた。
山は巨人の体であった。人々に忘れ去られた最後の巨人ダナマイ。彼の言葉を解すのは、傷を負った動物たち。
時を経て再会する二人を軸に、様々な過去を背負う人々を抱えて物語は動き出す。
舞台は原住民と漢人、祖霊と神が宿る台湾東部の海豊村。
山を切り崩すセメント工場の計画が持ち上がり、村の未来を前にして、誇りを守ろうとする人々と、利益を享受しようとする人々が対立する。
巨人がなおも見つめ続ける中、かつてない規模の台風が村を襲い、巨人と人間の運命が再び交差する――。
物語を動かすのはつねに、大いなるものに耳を傾ける、小さき者たち。
★2023年台湾書店大賞小説賞受賞
★「博客来」ブックス・オブ・ザ・イヤー入選
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちえ
27
洞窟の中で出会う少年と少女。最後の巨人と三本足のマングース、セメント工場建設計画。子どもが大人になるまでの時間、台湾東部の村を軸に、神話、大地、歴史、原住民、自然、環境といったものが絡みながら、登場人物や者たちの物語がタペストリーの様に紡がれていく。カバーと途中のイラストはフィールドワークをする著者の手になるもの。生き物や植物、特にコウモリに関して、知識の深さを感じ、読んでいて楽しかった。呉明益の小説はいつも私にその場に居るような、少し上の方からそこを観ているような、そんな感覚を覚えさせる。2025/06/12
ベル@bell-zou
18
おぉボーイ・ミーツ・ガール的な?と思ったら突然世界が始まり巨人が誘う神話の世界ちょっと哲学的やば…と挫けそうになりながら海豊の人々もろとも工場誘致の狂騒へ巻き込まれ物語に振り落とされそうになったり誰が誰だか怪しくなったりしつつも、面白かった。ただ最後かなり雑に読んでしまったのは反省。デモ隊に駆けつけた老温の「俺に関係あることではないが、俺もちょっと縛られてみようと思う」の“ちょっと縛られて”が無性に可笑しかったな。5月に展覧会に行ったルドンのキュプロークスから表紙絵を着想したと知り嬉しかった。縁だなぁ。 2025/07/17
おだまん
11
史実という現実と伝説の下地にしたファンタジーとのあわいを感じる神話的世界を包括した物語。この作品にも日本の影が色濃く見えている。カニクイマングースと巨人の絵本はぜひ読みたいです。2025/07/19
ぱせり
4
海豊村のセメント工場のようなものは、どこにでもある。私たちの身の回りにも。この物語は、素朴で美しい「お話」でもある。三本足のカニクイマングースが語る、お話。お話が悲しいかどうかも、誰も知らない。知らないうちに始まって、知らないうちに終わっていくお話。それでもお話は語り続けられていくのだろう。2025/07/21
冬薔薇
4
白い犬を追い洞窟に入るタロコ族の少年ドゥヌ、人買いから逃れるため家出した少女秀子はは反対側の口から洞窟に入った。台湾東部の海沿いの村の住人たちの数十年にわたる物語。リアルな現代史、原住民、大自然と神話。ドゥヌ、玉子、小鷗、小美、阿楽、ユダウ、ウィラン、ナオミたちの人生が短編小説のように描かれる。「海風クラブ」のところから俄然面白くなる。ラストのカラオケ、テレサテン「星影のワルツ」「昴」だなんて泣かせる。2025/06/21