出版社内容情報
白い犬の後を追いかけてきたタロコ族の少年と、自分を売ろうとする父親から逃げてきた少女。山の深い洞穴で二人は出会い、心を交わす。
少年が少女の村に、少女が少年の村へ入れ替わり出ていくのを、巨人は見つめていた。
山は巨人の体であった。人々に忘れ去られた最後の巨人ダナマイ。彼の言葉を解すのは、傷を負った動物たち。
時を経て再会する二人を軸に、様々な過去を背負う人々を抱えて物語は動き出す。
舞台は原住民と漢人、祖霊と神が宿る台湾東部の海豊村。
山を切り崩すセメント工場の計画が持ち上がり、村の未来を前にして、誇りを守ろうとする人々と、利益を享受しようとする人々が対立する。
巨人がなおも見つめ続ける中、かつてない規模の台風が村を襲い、巨人と人間の運命が再び交差する――。
物語を動かすのはつねに、大いなるものに耳を傾ける、小さき者たち。
★2023年台湾書店大賞小説賞受賞
★「博客来」ブックス・オブ・ザ・イヤー入選
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
19番ホール
3
山中の洞窟で出会った少年と少女、セメント工場の建設計画、そして三本足のマングースと巨人。台湾東部の村を舞台にそれぞれの運命の輪が回り始める。モチーフは過去作と共通してるものの、より現実からの参照が強い。へんな例えをすると、高畑勲のジブリと宮崎駿のジブリが融合してるような物語だった。にしても最近は環境を題材にした小説が人気だな。2025/06/16
冬薔薇
2
白い犬を追い洞窟に入るタロコ族の少年ドゥヌ、人買いから逃れるため家出した少女秀子はは反対側の口から洞窟に入った。台湾東部の海沿いの村の住人たちの数十年にわたる物語。リアルな現代史、原住民、大自然と神話。ドゥヌ、玉子、小鷗、小美、阿楽、ユダウ、ウィラン、ナオミたちの人生が短編小説のように描かれる。「海風クラブ」のところから俄然面白くなる。ラストのカラオケ、テレサテン「星影のワルツ」「昴」だなんて泣かせる。2025/06/21
極度乾燥
1
『複眼人』でも思ったが、神話的な自然の世界と泥臭い人間たちの現実、それらを語る複数の視点がこうも有機的に入り混じって、ひとつの力強い物語が立ち上がっていくのには何度読んでも感動を覚える。特に本作は、あんなにも短いラスト一文がずっと心に残って仕方がない。愉しい読書だった。2025/05/20
matsu0310
0
☆☆☆2025/06/23
ちり
0
“ほとんどの人々は、これを子供が想像した夢物語だととった。そして信じていないことを隠したまま、小鷗を傷つけないよう、儀礼的にひとこと言った。「ああ、そうだったの」ドゥヌのように、更に詳しい話を聞こうとした人は、ごく少なかった。「それで?」”2025/06/14