出版社内容情報
実力を持ちながら、公式戦を避けてきた岳。父が殺人を犯し隠れるように生きる岳は、一度だけ全日本剣道選手権に出場する。立ちはだかったのは、父が殺した男の息子だった――圧倒的筆致で描く罪と赦しの物語
内容説明
自分が認められることなどあってはならない。殺人犯の息子なのだから―。息を潜め生きてきた岳を導いてくれたのは、中学時代、ボランティアで剣道を指導してくれた柴田だった。やり場のない気持ちを剣道にぶつけてきた岳は、父が殺した警察官の息子・和馬と遭遇する。既に剣道で名を馳せる和馬との接触を絶とうとする岳に、柴田は「最後に岳の試合を見せてほしい」と言い…思わぬラストで涙腺が決壊する罪と赦しの物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
雪
77
単行本が図書館になく、ちょうど文庫化のタイミングだったのでこちらを購入。殺人犯の息子である岳と、被害者となった警察官の息子、和馬。正反対の立場である二人の青年が、剣道を介し、期せずして出会うこととなる。作品の大部分を占める第一章、第二章は事件によってそれぞれ辛い人生を歩んできた二人の過去がじっくり語られる。そしていざ相まみえた第三章。剣道の知識は皆無だったが、試合の緊張感や迫力がビシビシ伝わってきて圧巻だった。読了後もしばし余韻に浸りたくなる素晴らしい作品。2022/05/17
おつぼねー
65
加害者の息子と被害者の息子。事件のあの日から癒されない傷が二人を苦しめてきた。剣道を通してお互いを理解し合えるラスト?いやいや、そう単純では無い。結局部外者は無責任な発言になるのかもしれないが、せめて当人たちのその後の人生が前向きであって欲しいと願うしかない。2024/02/15
えみ
62
たくさんの悲しみと苦労と終わりの見えない追跡の罠に溺れそうだ。生きていく為には泳ぎ続けなければいけない。そこがどんなに光の見えない暗い闇が広がる海だとしても。止まること、それは即ち死を意味するものだから…。自分ではない罪に追い詰められた加害者家族と、突然家族を失うことになった被害者家族。正反対の立場でありながら突然世界を狭められ、周囲の偏見と勝手な妄言によって心が圧迫され歪められていく。視界に映るものは違うようで同じなのかもしれない。剣道を通して対峙する2人の覚悟に胸が熱くなる。思いがけないラストに感動!2023/09/07
三代目けんこと
43
2022年上半期ベスト1。このエピローグは切な過ぎてやばい。2022/06/15
ぽてち
41
3年前に刊行された単行本に加筆修正した文庫版。単行本は未読なので詳細は不明だ。殺人者の父親を持つ岳と、父親を殺された和馬。加害者の家族と被害者の家族という違いはあるが、2人には共通点があった。その象徴として剣道がある。本書は父親を失った家族の物語、少年の成長譚、贖罪の行方など様々な読み方ができるが、ぼくは本作を“ハードボイルド”と捉えた。ミステリーの1ジャンルではない。男の生き様の話だ。人はいかに生きるのかという話なのだ。2022/04/26