出版社内容情報
店を畳む決意をしたパン屋の父と私。引退後の計画も立てていたのに、最後の営業が予想外の評判を呼んでしまい――。日常から外れていく不穏とユーモア。今村ワールド全開の作品集!
内容説明
父のパン屋は人気だったことがない。母が騒動を起こして出て行ってから、焼いたパンの半分以上は捨てられる運命にある。残りの材料を使い切ったら店をたたもうと決めたある日、見知らぬ客が店にやってきた。イチゴジャムとマーガリンのコッペパンを、彼女はおいしいと言ってくれた―。些細な出来事から暴走しはじめる人間のあまりに純粋な情熱を描く表題作ほか、書籍初収録となる「冬の夜」を含む、芥川賞作家渾身の全7篇。
著者等紹介
今村夏子[イマムラナツコ]
1980年生まれ。2010年、「あたらしい娘」で第26回太宰治賞を受賞し、デビュー。受賞作を改題した『こちらあみ子』で第24回三島由紀夫賞を受賞した。16年には文学ムック「たべるのがおそい」に発表した「あひる」が第155回芥川龍之介賞候補となる。17年、『あひる』で第5回河合隼雄物語賞を受賞。同年、『星の子』で第39回野間文芸新人賞を受賞したほか、18年本屋大賞第7位となる。19年、『むらさきのスカートの女』で第161回芥川龍之介賞を受賞。同年、第37回咲くやこの花賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
270
7篇からなる短篇集。今村さんの著書は『とんこつQ&A』に続いての2冊目ですが「これが彼女の作風なんですね」と断定して良さそうな。狂気の短篇集だっただよ。一見普通の人々の様に見えるのですけど、微妙に歯車が巧く噛み合わない感じ。静かに不協和を起こしている様で、心の奥底で鳴り響く感じがするよ。何がとズバリ指摘できないけど、凄く気味が悪くて落ち着かない感じがしたり。そもそも存在し得ないシチュエーションを、恰も現実世界の話の様に書き表したり。感性が独特過ぎる世界観だったり。癖になりそうです。2023/02/21
シナモン
128
一見普通の人たちのありふれた日常のエピソードが、ちょっとずつズレや違和感を増しながらだんだん狂気じみていく感じがたまらない。こういうの大好き。クセになります。2022/11/15
エドワード
124
商店街の端にある父と私のパン屋は、母の不祥事が元で組合から抜け、開店休業状態だ。閉店を決めた矢先に現れた、新しいパン屋の女主人。彼女が来てから優しい奇跡が起きる。商店街に出口も入り口もない。和やかな人情が溢れ、優しい気持ちになれる短編集。フィアンセとの細やかな情愛「白いセーター」、チアリーダーなるみ先輩の秘密「ひょうたんの精」、スナックで働く女性たちとママの絆「せとのママの誕生日」、児童館の無垢なみっこ先生「モグラハウスの扉」、不思議な出来事が人と人をつなぐ。「冬の夜」のおばあちゃんがちょっと心配だ。2022/02/03
chimako
99
さっぱりとしない、モヤモヤが残る、ちょっと嫌な感じの、なのに読んでしまう 言うなれば今村夏子さんらしい(そんなにも今村さんの作品を読んではいないが)短編集だった。この可愛くて明るいホイップサンドの表紙。ホイップサンドは子どもの頃から大好物。ほのぼのした心暖まるお話……を期待したわけではないのに「やっぱりか」と思ってしまった。人はみんな違う。その違い方が「ズレ」となると途端におさまりが悪くなる。狭量な自分を認識しつつも相容れない世界の生き物の様に感じてしまう。実は自分も「ズレ」ているかもしれないのに。2022/12/01
ふう
91
気の重い日が続いていたので、ホッとできそうなタイトルにひかれて手に取りました。動機が不純だったからか、余計に気が重くなってしまいました。裏表紙や帯に「純粋さが暴走する」とありましたが、これを純粋さと言っていいのかどうか。一話目の「白いセーター」は2回読んでみたのですが、苦しくなったので、後の話は前に進むのみでした。どの登場人物も、多分こんな人はいるだろうなと思えて、自分をも含めてちょっと怖くなりました。2022/04/12