出版社内容情報
佐藤 亜紀[サトウ アキ]
著・文・その他
内容説明
1845年、オーストリア帝国の支配下にあるポーランド。僻村ジェキに着任した役人ゲスラーは、若き妻を伴い陰鬱な地にやって来た。かつて文学青年だった彼は、愛国詩人でもある領主との交流を心待ちにしていたのだ。だがその矢先、村で次々に不審な死が発生し、人々は土俗的な迷信に怯え始める―独立蜂起の火種が燻る空気の中、人間の本質と恐怖の根源を炙り出す、恐ろしくも美しい物語。皆川博子氏と作者による解説を収録。
著者等紹介
佐藤亜紀[サトウアキ]
1962年新潟県生まれ。91年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。2003年『天使』で芸術選奨新人賞を、08年『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞を受賞。16年に発表した『吸血鬼』と19年に発表した『黄金列車』はそれぞれTwitter文学賞国内編第1位を獲得した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sin
71
16世紀末~17世紀の東欧は貧困であった。ルネサンスの啓蒙思想に縁を持たない文盲農民、そのうえ異端審問を行わない宗教的な理由からも吸血鬼信仰が根付いた。そうした背景をもとに組み立てられたパワーバランスの物語だと感じた。領主の力、役人の力、農奴の力、夫の力、妻の力、迷信の力、宗教の力、そしてかそけきは詩の力、理知的に執り行われる迷信に満ちた儀式の所詮は気休めで、現実の災禍は現実に訪れる。郷に入って郷に従えば正気の儘、狂気に堕ちていくが、最後は領主の青臭いアジテーションを農奴の損得をわきまえた正論が撃ち破る。2022/09/01
コーデ21
28
久しぶりの佐藤作品(でも実は再読^^)前回は単行本で読了、今回は文庫本で😉 《オーストリア帝国の支配下にあるポーランドで繰り広げられる、人間の本質と恐怖の根源を炙り出す恐ろしくも美しい物語》しばらくご無沙汰していた亜紀ワールド、硬質な文体でありながらもユーモア感じる話運びにグイグイと惹き寄せられ最後まで一気に読了。博覧強記な佐藤さんならではの世界観が素晴らしい✨『バルタザールの遍歴』や『ミノタウロス』同様、何度でも読み返したくなる作品です。2024/01/07
ベル@bell-zou
19
また吸血鬼だなんて怖い話を…などと思うことなかれ。この物語には所謂ああいった類の吸血鬼は現れない、表向きには。不審死の原因が吸血鬼(ウピル)か否かは問わない。大事なのはその忌まわしい死を断つこと。村を治めるため冷徹に事を進めるゲスラーにもやがて課される陰惨な儀式。引き換えに得た彼の威信は哀しく皮肉だ。地主の力を誇示すれば百姓は理屈抜きで従うと思った詩人クワルスキの甘さを百姓であるマチェクの父が鋭く突く。学が無いことと賢しさは違うのだ。19世紀欧州、国々がまだ統合と分裂を繰り返す不安定な時代。↓2022/08/30
さや
17
解説が皆川博子さんだったのでホイホイされて読んだ。本編読了してから読んだものの、解説にネタバレがないので先に読んでも問題なし。むしろ分かりやすくなる気が。このタイトルからこういう内容になるとは思ってなかった。これはこれでおもしろい作品ですが、ミステリとかホラーを期待すると肩透かしかも。まとまった時間が取れなかったので少しずつ読みましたが、先が気になる展開の仕方。途中までハラハラしたものの最後はかなり哲学的だったように思った。語り口が現在形なのが味を出しているが、慣れないと読みづらい。2022/10/25
Book Lover Mr.Garakuta
17
【小林書店】【速読】:ある意味難しくて良く分かりませんでしたが、どろどろとした人間の内面を感じ、恐ろしいなと思いました。2022/10/05