出版社内容情報
R大学の史学科に教員として勤める小関は、大学内での処世術にも長けた同僚の折戸に、強い嫉妬心を抱いていた。
学問のうえでも差を付けられた小関だったが、ついに妻までもが折戸に奪われてしまう……。
大学内の派閥争いを軸に男女の愛憎を描いた、松本清張の傑作長編。
内容説明
小関と折戸は同じ大学に勤める助教授同士。業績もなく風采の上らない小関に対し、折戸は秀才型で女性からも人気。性格は対照的だが不思議とウマが合った。折戸は妻子ある身で通信教育で教える人妻と不倫関係に陥るが、やがて出世に目がくらみ、相手を面倒に思うようになる。さらには、小関が親密にする女性まで毒牙にかけようとし始めて…。学問の場に蔓延る腐敗人事と、生々しい男女の愛憎を描き切った松本清張の野心作!
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年、福岡県生まれ。印刷工を経て朝日新聞西部本社に入社。53年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。56年、朝日新聞を退社し、作家生活に入る。67年、吉川英治文学賞、70年、菊池寛賞、90年、朝日賞を受賞。92年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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りんだりん
15
山崎豊子さんの「白い巨塔」を思い出した。財前と里見の間柄を思わせる折戸と小関。折戸の不倫相手との精算に担ぎ出される小関。身勝手な折戸と、それを分かっていながら折戸の学問の才能の前に負け犬となってしまう小関は彼の言いなりに行動する。最後はやるせない結末でモヤモヤする。男女の愛憎と大学内の権力争い。時代設定は古いが今でも恐らく似たようなことが行われているのだろう。★32021/06/29
鉄人28号
14
☆☆ 東京の大学の国史科に所属する2人の助教授、折戸二郎と小関久雄、折戸は秀才で業績もある。鈍才と自認する小関は折戸の学才を尊敬している。折戸は高慢で自尊心が強く女にも手が早く品格に欠ける。風采が上がらず女にも奥手の小関を見下している風がある。にもかかわらず、小関の折戸に対する友情は厚く、理不尽な頼みにも応じる。その2人の関係が理解しがたい。この小説は殺人があるわけでもなく、また謎と言えるものもないのでミステリー性はない。しかし、社会派の松本清張ならではの作品である。2021/06/25
グラスホッパー
8
まじめな小関と女好き折戸、対照的な2人だった。小関の生き方が清張自身を写し込んでいるようであった。2024/10/26
hirorin
8
1966年発表の本。なので、もう今や完全にOUTなのが多い。女性25歳だと行き遅れとかシワがあるとか、入院患者を見舞うのに病室で煙草を吸うとか、個人情報ダダ洩れだし。女性が耐えるのが美徳とか。まさか約60年後に今のような世の中になってるとは思わなかっただろう。ただ、この主人公の考えていることは、普遍だと思う。でも、正直イライラしてしまうなあ。学問の世界もこういう閉鎖的で、今のアカハラにあたることが平気だったんだろうなと。途中で嫌になりながらも頑張って読みました。2023/02/28
dice-kn
8
著者の小説はこれまで読んだ記憶がなく、たまたま書店で見かけて手に取った一冊なのですが、展開が予想と異なり(ハッピーエンドではないですが)面白かったです。両極端な2人ほどじゃないけど似たような人はいるよなと、リアリティが感じられるところが上手いのかな・・電話の描写なんかは時代を感じますが、ストーリーは古くないなと思いました。不条理なんだけど、それだけじゃないと考えさせられるような・・読後にいろいろな思いが巡る作品は、私の中では名作ですね。2021/12/19