出版社内容情報
一年にたった一度の逢瀬。それだけを楽しみに機を織りつづける織女の浅緋は、自分たちを縛る「罪」の託宣の違和感に気づき、恋人の牛飼いに天の川を下って逃げだそうと提案する(「ながれゆく」)。他3編。
内容説明
仕事を辞め、慣れない育児に奮闘する暁彦は、“ママじゃない”ことに限界を感じていた。そんなとき拠り所になったのが、ある育児ブログだった。育児テクニックをそこから次々取り入れる暁彦だが、妻はそれがつらいと言い…。(「わたれない」)。私たちに降りかかる「らしさ」の呪いを断ち切り、先へと進む勇気をくれる珠玉の四篇。
著者等紹介
彩瀬まる[アヤセマル]
1986年、千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。17年『くちなし』で第158回直木賞候補、同作は第5回高校生直木賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
354
彩瀬 まるは、新作中心に読んでいる作家です。本書は、川を渡るをテーマにしたバラエティに富んだ短編集でした。オススメは、『わたれない』&『ゆれながら』です。 https://kadobun.jp/news/campaign/8i9byxd5ngcg.html2021/09/11
しんたろー
251
川をモチーフにした4つの短編は「己の限界や社会の常識を超えるには?」という事をテーマにした感じの物語…主夫による育児&家事、羽衣伝説に準えたファンタジー、生殖器が抑制された近未来の男女、傲慢な夫に尽くし続けた老女…少しずつテイストは違えど、現状に疑問を持って変化を求めて足掻く人々への愛が感じられる。中でも彩瀬節とも言える「妖しくも切ない香り」漂う文章の『ながれゆく』は、儚い絵が目に浮かぶようで堪能。娯楽より文学寄りの創りなので好みは分かれそうだが「エンタメ大好きオジサン」の私でも物想いに浸りつつ楽しめた♬2021/10/19
いつでも母さん
206
その川は全ての人間の中に存在する。母だから父だから、男だから女だから、妻だから夫だから、親だから子だから…自分とそれ以外と。声高に叫んでいるのではないのに、深く静かに突き刺さる彩瀬まるの世界。冷たくは無いのに温度が下がる。鮮明な色彩が広がり何処へでも行ける。ような気になる。行かないけど(私はね)短編4話。私の好きな彩瀬まるを堪能した。2021/09/20
みっちゃん
179
こういう彩瀬さん、大好きだ。バラエティに富んだ4つの話に必ず現れるのは川と橋。川はその願いとは真逆に己をがんじがらめにしている価値観やしがらみの象徴。その橋を渡っていきたい、こちらの世界にあるのは苦しみと絶望だけだから。が、その枠組みから飛び出す事への不安と怖れ。でも、でもでも!迷い苦しみながら彼らが選びとったもの。私も「その時」には躊躇なく飛び出せるように胆力を養っておきたい、と思った。どの話も好きだけど、織姫彦星、羽衣伝説を美しい文章で絡ませた『ながれゆく』が素晴らしい。ラストの荘厳なこと!2021/11/11
モルク
151
4つの短編集。それぞれの話に川が出てきて、あちら側とこちら側を結ぶ橋を渡る。川は固定観念の象徴か。仕事を辞め主夫となり慣れない育児をする夫。ママじゃないと駄目な子供、ママじゃないと入れない世界価値観に限界を感じていた夫に救世主が…を描く「わたれない」から始まる。七夕、羽衣伝説をおりまぜた「ながれゆく」が美しい。ファンタジーであり、天の川が隔てている世界の理不尽さが混じる。最終話の「ひかるほし」は夫の言いなりに生きてきた老女がぼけが入りますます意固地になった夫から前に踏み出そうとする姿に共感が持てた。2021/11/25