出版社内容情報
うしなうことは、辛いけれど、哀しくはない。愛の呪縛と再生を描く傑作長編
●彩瀬 まる:1986年生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞読者賞」を受賞しデビュー。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『神様のケーキを頬ばるまで』『桜の下で待っている』『朝が来るまでそばにいる』『森があふれる』等がある。自身が一人旅の途中で被災した東日本大震災時の混乱を描いたノンフィクション『暗い夜、星を数えて‐‐3・11被災鉄道からの脱出‐‐』を2012年に刊行。人を鋭く見つめながらも、繊細で美しい筆致で人気を博し、今最も注目されている作家のひとり。
内容説明
父の死をきっかけに実家の洋館を相続した明日香。24年ぶりの実家は懐かしくも忌まわしい品で溢れていた。遺品を整理しながら彼女は、家族への複雑な思いと父から必要とされなかった事実に気づかされる。やがて好調だった仕事はうまくいかなくなり、恋人との関係も壊れ始めるが…。「辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ」―この世界のどこかにあると誰もが信じている「愛」のその先を描く傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイマックス
97
ふ~ん、正直感想の言葉に困る作品だな。なんだろう…、わざわざ生き方を苦しくしている感じがする。素直になれなくてすれ違うとかのレベルではなく、難しく考え過ぎている。作者も作家という芸術家で、主人公も漫画家で、どこか凡人ではなく狂気でないと存在し得ない職種なのか。2021/10/17
mayu
82
苦しいのに引き込まれる。立派な家で居心地の悪さを感じる中、父だけとは分かりあえたつもりだった、愛されたいのに選ばれなかった。明日香はそんな思いに傷つく。私も無償の愛とか真っ直ぐな愛とか、そういうものに憧れる。「愛という言葉が使われるのは、基本的にそうじゃないものをそう見せようとする時だけ」この智の台詞にはっとする。私が愛と信じていたものは思い通りにしたいだけのエゴだったのではないか。枯れたとしても花が咲いていたことは否定しない。かつて誰かとの間に感じた想いを確かにあったと認められたら、前を向ける気がした。2022/08/30
だまだまこ
55
父の死をきっかけに、立派すぎる洋館を相続した漫画家の明日香。劇団員の彼と一緒に片付けを始める中で、自分の思い出と向き合っていく物語。子供の頃に親から「選ばれなかった」という記憶は深く根付いていて、それが変貌して彼への愛の依存や暴力になってしまう過程が悲しく切ない。稼いで彼を養っているという自負がまた、愛されて当然という傲慢さを生み出していることにお金という権力の物悲しさを感じた。「辛いことを生き延びた先」の景色が少しでも明るいものでありますように。2021/05/12
坂城 弥生
49
明日香の恋人への感情が変化していくのが生々しくてちょっと怖かった2021/08/03
dr2006
46
予定調和ではないドン底の結末は上向きの明日を担う。彩瀬さんの作品は、時間の経過とともに正のエネルギーが逓減していく心情表現が秀逸だ。主人公の明日香は売れっ子の漫画家だ。母との離婚で何十年も離れれて住んでいた父が亡くなり、遺言により父が所有していた大きな洋館を相続することになった。洋館に思い入れがない明日香は、売却するため恋人と共に遺品整理をすることになったが、作業を進める中で自尊心が瓦解する。それを養っている年下の俳優業の恋人との関係のせいにする。明日香は洋館に通うことで自己を傍観し「不在」に気づく。2023/10/09
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- 海援隊烈風録 角川文庫