出版社内容情報
「わかっちゃった。あなたもムーンライト・フリット(夜逃げ)でしょ」。人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に、巡り合った男女。高原に建つ「ムーンライト・イン」で、静かな共同生活が始まる。
内容説明
職を失い、自転車旅行の最中に雨に降られた青年・栗田拓海は、年季の入った一軒の建物を訪れる。穏やかな老人がかつてペンションを営んでいた「ムーンライト・イン」には、年代がバラバラの三人の女性が、それぞれ事情を抱えて過ごしていた。拓海は頼まれた屋根の修理中に足を怪我してしまい、治るまでそこにとどまることになるが―。人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った男女の、奇妙な共同生活が始まる。
著者等紹介
中島京子[ナカジマキョウコ]
1964年東京都生まれ。2003年『FUTON』で小説家デビュー。10年『小さいおうち』で直木賞、15年『かたづの!』で河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、柴田錬三郎賞、同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞、16年日本医療小説大賞、20年『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
449
男が3人と女が2人の、ちょっと奇妙な集合体。場所は八ヶ岳の山麓辺りらしい。都会の喧騒としがらみからは隔絶されたような世界が選ばれているのである。最初は様子が全くわからないのだが、次第にそれぞれの人たちの過去と今抱えている問題が明らかになってくる。あたかも霧がしだいに晴れてくるように。したがって、プロットの展開もまた直線的には進まない。語りもまた同様に次々と視点人物が変わり、その人に関わる部分が見えてくるという仕掛けである。どんな終わりかたをするのだろうかと思いつつ読み進めていたが、最後はあっけないような⇒2023/07/07
旅するランナー
283
高原の元ペンションに集まる、訳ありな人たちの優しいつながり。魅力的なフィリピン人マリー・ジョイさんと、人生やり直す拓海くんのこれからは、応援したくなりますね。中島京子らしい、ふわふわ感とぞわぞわ感を兼ね備えた、大人ごころをくすぐる作品です。2021/04/25
ウッディ
218
放浪の旅の途中、高原の元ペンションに一夜の宿を求めた拓海、そこはオーナーの虹さん、車椅子生活のかおるさん、元介護士の塔子さん、そしてフィリピンから来たマリー・ジョイが暮らすシェアハウスだった。50年間想い続けた恋、事件からの逃亡、実父への思いなど、それぞれが抱える事情が明らかになり、絶妙の距離感での共同生活に溶け込んでいく拓海。けれど、それは幸せな一時避難場所であり、永遠に続くものではないことを知る。心穏やかに安らげる時間と場所、人生にはそんな宿があっても良いのかもしれない。2021/07/10
のぶ
185
訳ありの人たちばかりだが、なぜか温かい物語だった。家を捨て自転車旅行の最中に雨に降られた栗田拓海は、古びた一軒の建物を訪れる。そこは老人がかつてペンションを営んでいた「ムーンライト・イン」だった。そこに住むのは、新堂かおる、津田塔子、フィリピン人のマリー・ジョイ。年代がバラバラの三人の女性が、それぞれ事情を抱えて過ごしていた。拓海は頼まれた屋根の修理中に足を怪我して、しばらくそこに留まる事になり、奇妙な共同生活が始まった。この雰囲気がとても面白い。家族のような関係が築かれているように感じた。2021/03/21
まちゃ
172
読み終えた後に何とも言えない余韻の残る物語。好みの作品でした。人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った老若男女5人(虹之介さん、かおるさん、塔子さん、マリージョイ、拓海)の元ペンション「ムーンライト・イン」での奇妙な共同生活。舞台は、清里、野辺山あたりかな。2021/06/08