出版社内容情報
私たちはこんなにも弱くて、脆い。それでも生きることから、逃げられない。
内容説明
私たちはこんなにも弱くて、脆い。それでも生きることから、逃げられない。音大のピアノ専科に通う真尋は、大学の授業で人の心を癒やすための音楽に出会った。今まで自分が演奏してきたのとは全く違う音楽の世界に興味を持った真尋は、即興演奏をもとに患者の抱えた問題と向き合っていく音楽療法の実習を受けることに。誇れる娘であってほしいと悪意なく邪魔し続ける母親にもめげず、クライエントと音を通じて向き合い続ける真尋だったが、次第に彼女自身が抱えた秘密も明らかになってゆき―。切ない痛みと力強い決意を描いた感動作!
著者等紹介
香月夕花[カツキユカ]
1973年大阪府生まれ。京都大学工学部卒。2013年「水に立つ人」で第93回オール讀物新人賞を受賞し、16年に受賞作を含む短編集『水に立つ人』を刊行(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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モルク
104
母の期待を背負い、音楽系の高校からそのまま音大に進んだ主人公真尋。音楽療法にも興味を持ち、合わせて学ぶようになる。助手としてクライアントに楽器を思うがまま弾かせることで心にためているものも吐き出させる。そして真尋自身にも闇が…。毒母とも言える娘を思い通りにしようとする母、その母も自分を認めてくれない祖母に対して闇を持つ。読んでいて苦しい。そして真尋のお兄ちゃんは…ええっ。2021/12/17
みかん🍊
100
音大に通う真尋は音楽療法の実習で心に問題を抱えたクライエントと楽器を奏でる、しかし彼女自身もある問題を抱えていた、母親の影響というのは代々引き繋がれていくのか、それ程親に縛られてしまうのか母子関係というのは闇が深い、可愛らしい装丁と音楽セラピストと言う事で温かい話かと思っていたが苦しい読書だった。2021/05/10
❁かな❁
82
音大ピアノ科の真尋は音楽療養士の見習いとして三上先生の診療所で実習を受けることに。真尋自身、繊細で生き辛そうなのが伝わってくる。真尋の母の存在が重くてしんどかった。クライエントの心に寄り添い向き合っていく中で真尋も自分の心に少しずつ向き合っていく。色々なことがわかっていき、とても切なかった。「人生が終わりに近づいたとき、一番引きずるのは思い残しの感情だそうですよ。そのまま引きずるよりは、思い切って、会えるうちに会ってみた方がいいのかもしれません。」「幻だって現実を生きる力になる」って本当にそうだなと思う。2021/04/09
シャコタンブルー
67
人の心の奥底に眠る秘めた感情、それは自身では気付かず、誰かの助けを得て解放されるのを待っているのかも知れない。音楽療法士の元に通う人達の複雑な心境と頑な思考、それを音により開放することの困難さを目の当たりにした。母親と祖母の間で葛藤する音大生の真尋が直面する現実と彼女の感受性豊かなゆえのマイナス思考に時として困惑する場面もあったが、母親の操り人形から脱却しようともがき苦しみながも音楽療法士を目指す姿にエールを送った。いつまでも優しい兄が妹の真尋のために奏でたあのピアノの一音は私の心の奥底にも静かに響いた。2021/02/06
はる
66
とても繊細な物語。音大のピアノ科に通う曽我真尋は、人の心を薬のように癒す音楽もあることを知り、三上先生の診療所で音楽療法士の実習を受けることにした…。様々な人たちの、切ない心の奥の叫び。静かな文章なのに、押し込まれた感情が今にも張り裂けそうで苦しくなる。そして、ラストにそれまでのことがひっくり返るような事実が明らかになった時、激しい悲しみとともに、ようやく息をつけたような開放感が押し寄せてきた。2021/01/10