出版社内容情報
ジャズが彼らのすべてだった――戦時下のドイツを舞台に描く音楽青春小説!
内容説明
ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者である父を持つ、15歳の少女エディが熱狂しているのは、敵性音楽の“スウィング”だ。歌い踊り、天才的な即興に驚嘆する。ゲシュタポの手入れを逃れるのもお手のものだ。だが音楽に彩られた日々にも、戦況の悪化が不穏な影を落とし始める…。権力と暴力に蹂躙されながらも、自分らしく生きようと闘う人々の姿を、ジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。
著者等紹介
佐藤亜紀[サトウアキ]
1962年、新潟県生まれ。91年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2003年『天使』で芸術選奨新人賞を受賞。08年『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。ジャンルも国境も軽やかに超え、深奥な知識と鋭い洞察力に満ちた物語は、常に読む者を新しい驚きで満たし、幅広い年代の読者に愛されつづけている。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
405
巻末に付された「跛行の帝国」を読むまでは、全きフィクションだと思っていた。第2次大戦中のハンブルクに、実際に(もちろん、小説としての仮構はあるだろうが)このようなスィング・ボーイズが存在したのは大いなる驚きである。まさにナチスがドイツを支配していたあの時代にである。ハンブルクがそれほどまでに開明的な街であり得たことは不思議でさえある。当時の日本においては、みんなが喜んでそうしたとは思わないが、それでも大多数の若者たちが予科練に、あるいは学徒として出陣していった。社会もまた、それを肯定していたのである。2021/12/08
rico
94
ナチ政権下のハンブルグ、親の金と地位(ナチの偉いさん等 )を最大限活用。イケてないユーゲントなんぞどこ吹く風、ノンポリでお気楽で、敵性音楽のジャズを流して連夜の乱痴気騒ぎ。彼らスウィングボーイたちは、結構一般人の顰蹙かってたんじゃなかろうか。激しくなる戦いは彼らの運命も変えていく。徴兵、ユダヤ人一家の悲惨な末路、逃亡、空襲による凄惨で夥しい死。でも彼らは立ちどまらない。めげない。忖度しない。したたかにたくましく、スウィングするように時代を駆け抜ける。彼らのような連中がきっと新しい風を起こす。かっこいい!2020/01/10
chantal(シャンタール)
72
痛快痛快、なんと言うスピード感!時はナチス政権下のハンブルグ。スゥイング命のアメリカかぶれの少年たちは毎夜毎夜着飾ってジャズに踊り狂う。日本でもジーパン履いたりロックを聴いたりすると「不良」と言われた時代があったけど、そんな「不良」たちの物語。とにかく「ナチ的なもの」は糞ダサいから大っ嫌いなエディ。ただの不良じゃない。反ナチに関してはド根性で頑張り抜く。マックスの「第一級混血」の祖母の話の頃からだんだんと戦局も厳しくなり、物語も悲惨さを増して行く。最後まで自分を貫き戦い抜くエディのカッコ良さ!最高だった。2023/11/28
佐島楓
62
なぜ違う国、違う時代に存在した物語を匂うように書けるのかというと、著者が小説家だからとしか言いようがない。こういった反戦の手段もそういえばあったのだ。ヘビィで読んでいてつらくなるけれど、人間は変わらず、救いになるものもあまり変わらないのだと思った。こんな世界を再来させてはいけない。2019/06/30
テツ
33
文庫版が発売されていたので購入。ナチス政権下のドイツ。ナチズムもファシズムもダセーと小馬鹿にしながら生きるエディ。貪るようにジャズを聴きたい。踊っていたい。小難しい思想信条なんて知ったことじゃない。好きなものに自由に触れていたい。それだけなんだ。それだけのことを邪魔する国なんてくだらなくて何一つ自分のためにならない。狂った時代の空気の中を自由にしたたかに踊るエディの姿が本当に格好良い。生きている限り人は自由に、自分の好きなことを好きなようにやるべきであって、戦争はそれを抑圧するという点のみを見ても邪悪だ。2019/06/29