出版社内容情報
宇佐美まこと[ウサミマコト]
著・文・その他
内容説明
民生委員の千加子は、「レインボーハイツ」とは名ばかりの、くすんだ灰色のマンションをたびたび訪れる。そこに住む、なかば育児放棄された5歳児・瑠衣を世話するためだ。他の住人たちも生活に倦み疲れ、暗い気配をまとっていたが、やがて必然のように不幸が打ち続く。住まい以外には特に共通項もない事件の裏にちらつく影は一体…?日常にじわりと滲み出す狂気を生々しく描く、長編ホラーミステリー。
著者等紹介
宇佐美まこと[ウサミマコト]
1957年愛媛県生まれ。2006年、「るんびにの子供」で第1回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞してデビュー、同作を含む短編集『るんびにの子供』を07年に刊行した。17年、長編『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんたろー
203
宇佐美さん初期の中編は、DV・リストラ・義母娘関係・育児ノイローゼなどを登場人物たちに背負わせて「嫌ホラー」とでも言えそうな陰鬱な雰囲気にゾッとさせられた。初期のグリム童話にある残酷性を紹介しつつ物語に絡めているのが面白いし、誰もが持っていそうな闇を描いているので、恐怖は身近にあると思わされる。ホラーゆえに釈然としない部分や強引に結び付けていると感じる部分も散見するが、短い章建てでテンポが好いので大して気にならないで済んだ。夢に見るほど怖い訳ではなかったが、気軽にホラーを楽しむには丁度良い作品だと思う。2018/10/18
nobby
174
いやはや、ラストでゾクッとするのと同時に、思わず数回「あぁ!それか!」と嘆息してお見事!レインボーハイツとは名ばかりの朽ち果てたマンションの住民の日常とグリム童話の融合、それまさしく『虹色の童話』。序盤から目にするのは夫のDVや妻の不倫、継母と娘の厭悪など、ありふれた事柄ながらも気は滅入るばかり…そんな面々に次々と降りかかる殺人模様、そこにはいつも5才児の影が…各世帯に関わる民生委員の目線を中心に、短めな場面転換で描く章構成は一気読み必至!グリム童話に疎く、途中で元ネタと結びつかない自分が残念だったかな…2018/09/22
pino
149
放置子、DV、幼子とシングルマザー、親子の不和、夫の猜疑心。その名に似つかわしくない古びたレインボーハイツの住人たちが抱える問題だ。それらを解決に導くべく足しげくハイツに通う民生委員の千加子。その願いをよそに、住人たちの押し込められた感情が爆発し、次々と凄惨な事件は起る。緊迫した描写にいやな汗が纏わりつく。しかも何かに操られたような住人の心情は、真綿で首を絞められたようにじわじわ来る。初めはホラー要素が軽めの小説かなと気楽に読んでいたら……本当は怖い 「虹色の童話」。最終局面で真綿を一気に締め上げられた。2022/06/13
りゅう☆
107
古びた賃貸マンション「レインボーハイツ」は不穏な空気が纏う。5歳の瑠衣の祖父はアル中で瑠衣を保育園にやらないと言い張る。失業して就活しない夫に代わり、夜の小料理屋で働き始めた妻の帰宅が遅れ始めたのが気にくわない夫。別れた夫が娘を奪いにくるのが怖くて引きこもる女。優しい夫が暴力をふるうのはきっと自分に至らないところがあると思い込むも怯える日々を送る妻。再婚相手の娘が反抗的、姑は意地悪、年齢的に子供は望めない管理人夫婦の息子の嫁。民生委員千加子は改善できればと足繫くレインボーハイツに通うも、ある日殺人事件が→2019/05/09
あも
103
錆びた排水パイプ、くすんだ壁面、灰色の世界。じめじめとした空気が全編を包み込む。舞台となるアパートはレインボーハイツと言う名とは裏腹に、DV夫婦、ネグレクト祖父と幼児、再婚夫の連れ子に忌み嫌われる女、リストラされ妻が飲み屋に働きに出た夫…。鬱屈した感情とどん詰まりの閉塞感が本を持つ手を通してじっとりと染み込んでくるようだ。ハイツの住人を見舞う民生委員の千加子が視点人物となるが、次々と起こる目も当てられない事件に気分はただただ沈み込む。そして誰もいなくなった。これが現代の"虹色の"童話なのかと思うと心寒い。2019/07/19