内容説明
庭に咲く艶々とした椿の花とは対照に、暗い座敷に座る小山内君は痩せ細り、土気色の顔をしている。僕は小山内君に頼まれて留守居をすることになった。襖を隔てた隣室に横たわっている、妹の佐弥子さんの死体とともに。しかしいま、僕の目の前に立つ佐弥子さんは、儚いほどに白く、昔と同じ声で語りかけてくる。彼女は本当に死んでいるのだろうか。「庭のある家」をはじめ、計8篇を収録。生と死のあわいをゆく、ほの瞑い旅路。
著者等紹介
京極夏彦[キョウゴクナツヒコ]
小説家、意匠家。1963年北海道生まれ。94年、かねてよりアイデアを温めていた妖怪小説『姑獲鳥の夏』で小説家デビュー。『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞、『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、『後巷説百物語』で第130回直木賞、『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
76
文庫で再読です。オムニバス形式の短編集。生と死の間にいるような曖昧でほの暗さが感じられます。あの世がちらつくのには鳥肌が立ちました。完全に見せるわけではないというのがまた怖さを駆り立てるところです。2018/08/13
Yuna Ioki☆
55
743-352-9 京極夏彦には珍しく(?)短篇集。後の遠野物語にも通じる感じかな。やはり京極堂シリーズの本編が早く読みたい。2014/11/05
鈴
38
【ホラー週間@月イチ】④初作家さん。今まで読んだことのないような独特の世界観だった。怖いというよりは不気味。もやもやっとしたはっきりしない怖さ。2018/10/29
つたもみじ
37
短篇集。どの話も、ゾッとするような恐怖ではないけれど、日常にふと顔を覗かせる怖い話。『幽談』のように物語に織り込まれた据わりの悪さや、正体のわからない不気味さは少なかったが、それよりも、より身近なところに潜んでいる恐怖が多かった。本当に死んでいるのか、それとも生きているのか。彼岸と此岸のなんと曖昧なことよ。「過ぎた時は、死んだ今。記憶というのは、今の幽霊」ラストの『先輩の話』だけは少し異質で、酷く切ないラストだったが、個人的には『凬の橋』『柿』に薄ら寒さを感じた。2014/05/10
よみとも
30
気づかぬうちに踏み込んでしまった此岸と彼岸のあわい。灰冥さの中に置き去りにされるような短編8編です。説明もつかず、何も分からぬままに終わってしまうスタイルで、中には分からなすぎて、読みきるのがちょっとしんどいものも。ふと訪れた幼なじみの家で、隣の間に死体が安置されていると告げられ留守番を頼まれる「庭のある家」、壁の穴の向こうに覗く顔「冬」、無言で橋を渡って石を拾えば死者の遺志を知ることができるという「凮の橋」、の3編は厭な感じも絶妙でお気に入りです。2024/09/07