出版社内容情報
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。「無為の孤独」を非情に守る青年・島村と、雪国の芸者・駒子の純情。魂が触れあう様を具に描き、人生の哀しさ美しさをうたったノーベル文学賞作家の名作。
内容説明
無為徒食の男、島村は、駒子に会うために雪国の温泉場を再訪した。駒子はいいなずけと噂される好きでもない男の療養費のために芸者をしている。初夏の一夜以来、久々に会えた島村に駒子は一途な情熱を注ぐが、島村にとって駒子はあくまで芸者。島村は雪国への汽車で会った女、葉子にも興味を抱いていて…。「無為の孤独」を非情に守る男と、男に思いを寄せる女の純情。人生の悲哀を描いた著者中期の代表作。
著者等紹介
川端康成[カワバタヤスナリ]
大阪の開業医の長男として生まれたが、肉親と相次いで死別し、天涯孤独の少年期を送った。大正13(1914)年、東大国文科卒業。在学中より新進作家として注目されていた。日本の美と、女性の優しさを深く描出した「雪国」は海外でも評価が高い。昭和43(1968)年、日本人初のノーベル文学賞受賞。その4年後、72歳でガス自殺をとげた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
182
淡くガラス窓に消える雪のようなものを見ていた。過透明な羽虫の翅は美しすぎてまるで死のようであったが、私はむしろそこに生き抜く逞しさのようなものも併せて見たような気がしている。 雪で閉じられたそのくにのおんなが、脚は容易く開いても、真に心を開くことはないだろう。つらく厳しい冬の寒さは、はっと息をのむ幻燈と、永遠のような啓示のような星の河をひらめかせすうと消えた。燃えるかなしみと、いじらしく故にみすぼらしいような生命力。その切なるひらめきの瞬間に立ち会えた、そのことは私にとっては何よりも慈しむべきものである。2019/12/22
アキ
124
NHKドラマを見て再読した。ロケ地は我が故郷会津若松。駒子「不思議なくらい清潔な印象」の奈緒がいい。「悲しいほど美しい声」の葉子と踊りの師匠の不治の病に伏せる26歳の息子。3年のうちに変わりゆく女の身体。雪国の季節毎に見せる景色。「徒労だね」と発する言葉は駒子に向けたつもりが、自分にこだまする。鳥追い祭りの焚火と列車の中のともし火に浮かぶ葉子の顔、そして火事の中発狂する葉子。闇の中の夜光虫のように登場人物すべてが天の川の星々なのかもしれない。「さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。」2022/04/19
ykmmr (^_^)
116
色んな作品を手に取るようにして、新しい知識・感性等を入れていくように『読書』をしているが、それと同時に、『螢川』を皮切りに、以前読んだ作品も読んで、感想を残そうと思った。ミシマ『潮騒』と共に、高校時代初読→今に至る。まずは、あまりにも有名な冒頭。これにより、この小説の儚さ・哀愁が一行で表現されている。その雪国で、その『恋愛』の事実は道徳的に如何なものかと思う事ばかりだが、もう1人のヒロインを含めた主要登場人物3人が、細やかに動き、細やかに心情を変え、それぞれの在り方・人生の所在などを川端文学が作る。2021/09/27
吉田あや
90
温泉場で芸者として身を立てながら懸命に生きる駒子と、刹那的に生きることの享楽と孤独を時に楽しみ、時に虚に包まれる無為徒食の男・島村の対比を中心に、湯沢の風景や物事の濃淡がみせる人生の光と影が描かれる「雪国」。妻子ある島村との恋は何処にも辿り着けず、相手の内側に我の寂しさを見つけ、別れることも繋がりきることもできず、生きるということの人の虚しさが広がる。淡く惹かれた女の顔に見た、野山のともし火の得も言われぬ美しさは終焉に燃え盛る業火となり、真白な雪と赤黒い火明りの景色に茫然と飲み込まれる。(⇒)2019/10/18
アキ
82
ノーベル賞受賞の対象作品。日本語の文章の巧さと優れた感受性で日本人の心の精髄を表現したと評された。冒頭の有名な文章から、雪深い列車の中の夕景色の鏡の中「指で覚えている女」と「眼にともし火をつけていた女」との間になにがあるのかと匂わせる始まりから妖しげ。駒子に魅かれていく島村は、遂に火事のなか葉子が落ちるのを見る。その夜空は天の川が掬い上げられる程近かった。部屋に羽ばたく蛾や雪国の冷水で晒した麻の縮、内湯で聴く葉子の謡が印象的な場面として頭に浮ぶ。物語としては謎めいたまま終わるが、心情を表わす表現が印象的。2019/11/18
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