出版社内容情報
白姫澤村に住む祖父を訪ねた小学生の龍一は、彼の家系が氷室守だったことを知る。その役割は将軍に献上する氷を取り扱うことだが、隠された別の役割をも担っていた。彼は氷が保管された洞窟で見た異様な光景に取り憑かれ、邪な蒐集を始めていく……。妖艶な雰囲気に包み込まれるサスペンスホラー。
内容説明
「生きたまま極楽浄土を見せてやる」氷室守りの家系に繋がる祖父が、小学生のユウジをいざなった漆黒の洞。そこで見た蠱惑的な光景は、ユウジの中に脈々と息づく氷室守りの血を滾らせるものだった。やがて彼は、背徳的な蒐集に駆り立てられ…。幻惑のホラーミステリー。
著者等紹介
篠たまき[シノタマキ]
秋田県出身。エディトリアルデザイナーを経て、実用書作家、取材ライターとして活躍。2015年「やみ窓」で第10回「幽」文学賞短篇部門大賞を受賞してデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちょろこ
151
しっとり読ませるホラーミステリの一冊。閉塞感漂う村、氷室守りの家系。水掻き。漆黒の洞窟に咲く異形の花。もろ好き系ワードに心が踊る。幼少期に見た光景が自分の中に潜む血を掻き立てるって、なんだか現実味を感じてこちらまでゾクゾクソワソワ。一体この幼少期の光景から物語がどう展開していくのか…季節の移ろいと共にちょっと淫靡漂う美の世界へと連れ出された。あぁ、こういう繋がりか。うん、ラストもそうこなくちゃね。幻想的な描写はもちろん残酷な描写も、なんだかしっとり静かに絡みつくように美と共に魅せるこの世界観、好み。2021/04/29
モルク
106
両親の不仲により夏休みを限界集落の祖父の家で過ごすユウジ。代々氷室守りの家系であり、祖父に連れていかれた漆黒の洞の中の仙女と白い花はユウジを魅了する。そして祖父と引き離され大人になっても水掻きのある女を求める。官能的で魅了される世界観。そこにはクチナシとハッカの香りが漂う。猟奇的でもあり田舎の村ならではの村八分。ゾクゾク感がたまらない。湿気と冷気が身体に絡み付く。ホラーサスペンス。2021/10/04
タイ子
92
うーん、不思議な世界観。氷室と言う別世界に魅入られた人間、それはユウジが幼い頃祖父と過ごした山間の集落での夏休みの出来事。水かきの美しさに魅了されるユウジ。彼のどこか異常なまでの性格が後々、出会う人間たちの人生を変えていく。いやぁ、それにしても氷室の極楽浄土に魅せられてあそこまでするなんて…。美とエログロ、地獄と極楽の世界を大いに堪能。じいちゃんと孫のプチBLな感じが新鮮?!2021/05/03
ケイト
64
やっと読めた、篠さん3冊目。ユウジが夏休みに行った祖父の家、ハッカとクチナシ、土や草の匂い、じっとりした風が漂う。祖父の手の掻き平に触れた感触、祖父は「こちょぎたい」て言うけれど、これは淫靡で艶めかしい世界へのいざない·····祖父が教えてくれた洞窟の中の氷室に魅せられ、仙女の姿とそこに咲く白い花にうっとりするユウジ·····う〜ん狂気で黄泉にも通じるような世界観。次作も楽しみだ。2021/08/02
カノコ
42
白姫澤村の氷室守りの家系にある祖父を訪ねた小学生のユウジ。その夏、氷室で見た蠱惑的な光景に、ユウジは魅せられる。捉えどころのない、静かで怖気のする話だった。氷室守りとは何か、わかりそうでわからないまま進む物語にモヤモヤさせられる。偏狭的にひとつのものに執着する彼も、彼を取り巻く女たちも、みんなどこか不幸で抜け出せない業を背負っている。ただ、氷室に咲く花に、誰もが囚われている。耽美と呼ぶには悍ましく、猟奇的と呼ぶには切実すぎる。それでも、わたしも氷室のその美しい景色を見てみたいと、そう思ってしまった。2021/04/18