出版社内容情報
【文学/日本文学小説】江戸で一人、女蒔絵師として原羊遊斎に師事する理野。彼女は、女の情念を込めた、この世に一つとない蒔絵を完成させるために、人生の全てを蒔絵に注ぐが……。実在の人物を織り交ぜながら、女性のやるせない恋心を描く、『さざなみ情話』(2007年)以来の長編小説。
内容説明
江戸の名工・原羊遊斎に師事する蒔絵師の理野は、師風と自身の理想との間で苦悩する抱一門下の画家・鈴木其一に惹かれ始める。日陰の恋にたゆたいながら、異色の女流は独自の表現を求めて自らの生をも染めてゆく。二人の八年後に描く続編「渓声」を収録。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953年東京都生まれ。96年『薮燕』でオール讀物新人賞、97年『霧の橋』で時代小説大賞、2001年『五年の梅』で山本周五郎賞、02年『生きる』で直木賞、04年『武家用心集』で中山義秀文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Lara
88
江戸時代、男社会の職人の世界に、江戸に乗り込んで蒔絵師を目指す理野。縦社会の中、個人の芸術性、組織の維持、どちらを優先させるのか、常に悩まされる。苦しみながら、悶えながらも、決断して進んできた。男との付き合いも、自分の先々を考え結論付けた。そして、故郷に戻る決心をした。乙川氏の選ばれた言葉で作られた頑丈な文体を、読みすすめるが、私にはじっとり重たい雰囲気、ちょっとしんどかった。蒔絵、あるいは芸術に関する乙川氏の造詣の深さに敬服する。馴染みのない言葉が続出し、時間がかかった。いつか読み返してみたい。2020/10/15
クリママ
52
単行本で読み終えたが、その後日談を知りたく、「渓声」が収録されている文庫を読む。故郷松江に戻って8年、江戸でしばし語り合った男が訪ねてくる。その心躍る様にそうだったのかと思いつつ読むが、終局に驚く。結局彼女は節操のない女だったのか。いや、打ち込めるものを持ちながら、男に迷惑とかけない女が作者の理想であったのかと、釈然としない思いが残った。2022/06/04
James Hayashi
25
時代は江戸後期。光琳、酒井抱一、鈴木其一、谷文晁など有名画家の名も見られ興味を引くが、一線を越えない男女関係など時代物を苦手とする自分にはやはり単調であった。付かず離れずの女心と蒔絵師職人としての自負。美術関連の時代小説であり興味を持ったとき、また読み返したい。2018/11/17
MIKETOM
9
読むのにえらく時間がかかってしまった。女蒔絵師の成長譚。蒔絵の道に精進しあれこれ思い悩みながらも少しずつ成長していく、そんな部分は素直に共感できる。しかしながら! とにかく密度が濃すぎ。仕事中も食事中も入浴中も散歩中も寝てる時も誰かと語らっている時も好きな男と一緒の時も、とにかく蒔絵蒔絵蒔絵…。読んでて息が詰まるというか逃げ場がなくなるというか、20ページぐらいで本を閉じて好きなアイドルタレントのyoutubeでも見たくなってしまった。そしてやっと呼吸が出来た感じ。ラストの余韻とか、悪くないんだけどなあ。2021/02/19
Noelle
7
面白かったー。寡聞にして蒔絵師という仕事に全く無知だったのだが、絵画も蒔絵もその制作場面の描写は秀逸。生き方と芸術を天秤にかけねばならない蒔絵師理野の悩みは、おそらく今にも通じるし、工房制作の代作と個性の発揮もやがて才能への開花となるか潰れるか、時を超えてあり得る問題である。そこで自分の内なる声に耳を傾け、思いを貫く理野の勁さこそが本書の眼目である。酒井抱一、鈴木其一の絵画も思い浮かべつつ、蒔絵師羊遊斎の作品もWikiりつつ、文化文政期の芸術も同時に堪能した。2019/03/16
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