内容説明
日本におけるリアリズムの特殊性を語った「日本人と合理主義」や大阪の魅力のとこれからの課題を真摯に訴えた「土地問題を考える」など、確かな知識に裏打ちされた話の数々は精妙で、いまだ我々を惹きつけてやまない。本巻では1975年から1984年にかけての講演18本を収録する。
目次
一九七五年‐一九七九年(週刊誌と日本語;土地問題を考える;『空海の風景』余話;日本人と合理主義;世間について;大坂をつくった武将たち;浄土教と遠藤周作;鉄と日本史)
一九八〇年‐一九八三年(松山の子規、東京の漱石;文章日本語の成立;『坂の上の雲』と海軍文明;朝鮮文化のルーツ)
一九八四年(土佐人の明晰さ;訴えるべき相手がないまま;ロシアについて;医学の原点;孫文の日本への決別;日本の文章を作った人々)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
44
リアリズムに関するくだりが多数。イデオロギーや観念によって認識がゆがむことを、司馬さんは恐れたんだな■「三角は三角だ」と言うことは難しい。それを私心なく平易に綴ることは、もっと難しい■国家のなかで日本語ができあがる時期に、夏目漱石と正岡子規という2人を持ったことは幸運だった。漱石は「則天去私」、子規は「写生」――それぞれ、事実や心をありのまま文章にすることを尊重した■ときどき、火をふくような険しい言葉もある。「いま、自分は死ぬ。それでよいか」「よい」という、自問自答。大業を成す精神を、こうして育てたのか。2021/09/13
aponchan
22
司馬遼太郎氏作品乱読のうちの一冊。第一巻に引き続き、今まで読んできた氏の作品のレビューをする事ができる濃い内容だった。 引き続き、第三巻も読みたいと思う。2021/09/26
まさにい
10
『訴えるべき相手がいないまま』が特に印象に残る。マーク・トウェインの初期と終期の作品を比べながら、アメリカと日本の違いを経て、地球規模で将来の地球を憂う内容。禅と浄土教の解脱の違い(出生時の平等を元に考えるか、死の下の平等を考えるか)。キリスト教と仏教の違い(一神教に基づいた法の下の平等か、死または生を基準とした平等か)。こう整理していくと、いろいろ考えさせられる。2018/03/08
kichy
7
現在の日本語の文章の基礎を作ったのは夏目漱石である。泉鏡花の文章では恋愛は書けてもルポタージュは書けない。現代の文章を書くにあたり話し言葉と書き言葉を一致させるのに何の違和感も感じないようが、明治以前はそれが当たり前でなかったことに驚く。幕末の志士が隣の宿への連絡にわざわざ手紙を書いて伝えていたエピソードも紹介されていたが、話し言葉も実は不自由だったという逸話も面白い。素人と玄人の文章の違いは精神があるかどうか、司馬さんの文章に引き込まれるのは私心がなく精神が込められているからだろう。2025/06/17
まさにい
6
再読。最後の方に書かれている『ロシアについて』が興味深く読めた。ロシアの起源。9世紀頃、今のウクライナのキエフあたりにロシア人の元があり、スウェーデンの海賊が川伝いにやって来て、この民族を統治した。このスウェーデン人は、ギリシャ正教で、これが今のロシア正教になる。その後13世紀にはジンギス汗に占領され、これが250年程続く。ロシアの農民は農奴であり、搾取される形態が続く。このキプチャク汗国の後、ロマノフ王朝ができる。ここでも、農民は農奴。その後、イワン雷帝が登場し、コサックを使いシベリアを領土とし始める。2022/06/13
-
- 和書
- 隔離の島 ちくま文庫