内容説明
職場や家族、多様な問題に直面し、大切な人生の転換点を体験する。最も意気盛んな安定期に見えて、中年ほど心の危機をはらんだ季節はない―。夏目漱石、大江健三郎など、日本文学の名作12編を読み解き、そこに登場する中年の心の深層を探る。わが国を代表する心理療法家による、待望の中年論。
目次
1 人生の四季―夏目漱石『門』
2 四十の惑い―山田太一『異人たちとの夏』
3 入り口に立つ―広津和郎『神経病時代』
4 心の傷を癒す―大江健三郎『人生の親戚』
5 砂の眼―安部公房『砂の女』
6 エロスの行方―円地文子『妖』
7 男性のエロス―中村真一郎『恋の泉』
8 二つの太陽―佐藤愛子『凪の光景』
9 母なる遊女―谷崎潤一郎『蘆刈』:10 ワイルドネス―本間洋平『家族ゲーム』
11 夫婦の転生―志賀直哉『転生』
12 自己実現の王道―夏目漱石『道草』
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
レモングラス
60
河合隼雄先生が文学作品を通して中年の問題を語る。何かひとつの考えや方法を確立して、それで一生押し通してゆくことはできず、どこかで何らかの転回を経験しなくてはならない、と書かれている。漱石の「道草」が最後に取り上げられているのを読み「道草」を読んだ時の苦しさから解放された。ああそうだったかと胸にストンと落ちた。生きるのがずいぶん楽になった気がした。清々しく感じた。人生、いろんなことがあるし、自分をしっかり持っているつもりでいても、振り回されたり疲れたり。そういうことのひとつひとつがすーっと溶けていった。2021/01/27
うわじまお
35
もやもやとした中年の悩みを解消してくれる本だと思い読んでみました。が、そりゃそうだよな、そうなるかもしれないねといった中年の事実を、さまざまな小説に照らし合わせながら解説するコラムの集合体であって、心が軽くなることはありませんでした^^;2020/07/13
ばんだねいっぺい
19
ついつい、頭でっかちで、因果律にとらわれて考えてしまうが、これも訓練である。ワイルドネスというものは、たしかに封殺されるよなとかなり思い当たりがあった。2025/04/13
ひのじ
8
昔の小説を臨場感たっぷりに語る。テーマは中年が遭遇する二律相反。成し遂げたかった夢にひとつの到達を見た後に思い浮かぶことはやはり同じようだ。まさに、落日と旭日がせめぎ合う。下手なビジネス書でまとめられるのとは納得感が違う。何か強くなった気がしてくる。2020/03/02
ムーミン2号
8
河合さんが読んだ小説の中から、何らかの意味で感動したものを選択し、その中で「中年」の心理の特徴を考えようというもの。いろんな意味で中年というのは大変な時期だというのがわかる。最後は漱石くんの『道草』が取り上げられているが、人生に「道草」は必要だし、必要な時に「道草」はポンと眼前に提示されるものだ、ということは今までの経験から何となく理解はできる。一方理解が難しかったのは「エロス」の章(第6,7章)で、そこは紹介された本を読むなりして考えるのもいいのかも知れない。中年は、なかなか大変だ。2018/05/07