内容説明
西欧先進国から移転された技術と、途上国の在来経済との出会いは、しばしば矛盾と混乱を生み出す。19世紀の日本も例外ではなかった。しかしなぜ日本は、アジアやラテンアメリカ諸国と同じように停滞と植民地化への道を歩まなかったのか。近代日本技術を代表する製糸、紡績、製鉄、造船の4つの産業の発展過程を追うと、西からもちこまれた圧倒的な力に対して、サムライほか改革者たちの奮闘、在来産業の積極的な対応・変容と矛盾を克服する努力、その葛藤のなかでもたらされたダイナミックな発展が見えてくる。工業化を支えるのはなにか。「近代技術の形成」という地球史的視点で、開港から近代国家勃興期の足取りをたどる。
目次
第1章 工業化の始点
第2章 武士の工業
第3章 明治維新と工部省事業
第4章 過渡期の在来産業―その原生的産業革命
第5章 機械紡績業の興隆
第6章 工部省釜石製鉄所から釜石田中製鉄所へ
第7章 近代造船業の形成
第8章 日本近代技術の形成
著者等紹介
中岡哲郎[ナカオカテツロウ]
1928年、京都生まれ。技術史家。53年、京都大学理学部卒業。定時制高校教諭、企業技術者を経て、神戸市外国語大学講師、大阪市立大学、大阪経済大学教授を歴任。83年にメキシコのエル・コレヒオ・デ・メヒコ客員教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きさらぎ
5
「技術進歩と労働問題」から研究をスタートした著者が、国連大学での研究をきっかけに「日本の技術発展史」に関心を広げ、植民地経験を持つメキシコの大学での講義経験を経て日本に戻り、西陣織などの伝統産業の発展などのテーマにも取り組んだ。その20年以上にわたる研究をまとめた一冊。熱くまた厚い。機械のメカニズムや染色の化学反応等も改良に絡んでかなり詳細に述べており、私のような文系には決して読みやすくはないが、頑張って読めば中々に目頭が熱くなる。技術面と歴史面をきっちり押えたプロジェクトX本、というと怒られるだろうか。2017/08/04
人生ゴルディアス
3
最の高。幕末から明治にかけて西欧技術が導入された顛末を、紡績、鉄、船に絞り、当時の政治情勢や時代の空気なども交えて非常に説得的に論じていた。その情勢分析も見事だが、相当細かく踏み込んだ技術解説と、さらに経営分析までしていて、すごい以外の言葉がなかった。で、散見されるのはやはり無知からの油断や、機械の最適な利用法を用いなかったり、先入観で見切り発車したり、現代でも当たり前に見る失敗例。しかし最後は技術導入を乗り越えた先の日露戦争勝利から起こる技術ナショナリズムと、実体の乖離から続く敗戦への布石が悲しい。2025/05/22
Hiroki Nishizumi
3
学者らしい緻密で丁寧な文章で明治期の産業興隆を綴り、必ずしも専門とは思えない紡績についても大変詳しく記述している。読みがいのある技術史本だ。大きな歴史の流れを掴むためには、このような地を這うごとき検証と調査が必要ではないかと感じた。第八章「日本はなぜ『低開発の開発』の道を免れたか」については既知の回答内容であったものの参考になった。評価B2012/08/24
takao
2
ふむ2023/06/30
aeg55
1
墨東先生が紹介されていたので気軽に読み始めてみたら、500頁近くある大書でなかなか読み進められず4週間を要した。江戸末期の反射炉から始まり織機、紡績業、製鉄、造船と話は進んでいく。明治維新から西南戦争、日清戦争までの間の日本の社会の描写が興味深く、この時期の雰囲気が知れたのは予想外の収穫だった。「既に時代遅れの青銅製の大砲」の国内製造に励む諸藩のサムライたち。 「やればできる」的なノリで始めるがまともなものはできず失敗を繰り返すサマは、21世紀の今の日本でもよく見かける風景となってきており痛々しい。2024/07/19