出版社内容情報
三十年前に別れたままのきみが凍死体となって発見され、わたしの中であの町での思い出が甦る――文芸界最注目の新鋭が、前代未聞の手法で叙情的に紡ぐ、切ない恋情。貧困・警備員オタク生活を半私小説的に描く「ベイビー、イッツ・お東京さま」を併録。「君の六月は凍る」――30年前に別れた君が凍死体で発見されたと聞き、わたしはあの町での君との記憶を呼び覚ます。鶏小屋の前で、私たちは会っていた。お互い孤独だったわたしたち、初めて訪ねた君の家にはZがいた。学校の鶏小屋で生まれたばかりの鶏の子供を、君はある日連れて帰った。「鶏に名前はいらない」しかしある日、養鶏場で鶏の病気が発生する――わたしは忘れない、別れの時に、君があげた叫び声を――。名前につきまとう性別のニュアンスをあえて削ぎ落とすという試みを、叙情豊かに描いて絶賛を浴びた傑作。
内容説明
『完璧じゃない、あたしたち』『ババヤガの夜』―そしてこの戦慄の物語へ。半私小説的作品「ベイビー、イッツ・お東京さま」を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
91
『ババヤガ~』の王谷さん作品で二編からなる本作は、残念ながらあまり世界観に入っていけませんでした。特に表題作は正直もう、ただひたすら文字を追ってただけの状況に。後半に収められている『ベイビー~』の方はどこまでホントかはさておき、半私小説的な作品らしかったので、割りとしっかりと読めたかなと。バイオレンスとファンタジーとスピード感のバランスが作品によっては、少し崩れてしまう気がします。過剰にバイオレンスだったり、謎すぎるくらいファンタジーだったりと、まだちょっと王谷さんテイストに馴染めてないのかもしれません。2025/08/02
シャコタンブルー
70
君の六月は凍った。それを知り30年ぶりに君の事を懐かしく思い出す。映画「スタンドバイミー」を彷彿させる意味深な始まりから惹かれていく。中学生だった時に出会った君との思い出それは愛であり嫉妬であり、あらゆる感情を剥き出しにしたナイフのような鋭さと敏感さだ。多感で内省的で素直な気持ちを吐露できないもどかしさ。その感覚が巧みな表現により静かに浸透してくる。一枚のシャツの匂いから導き出される真相それは闇の迷路のようでもあった。30年間凍っていた心が溶けていく叫び声。それがいつまでも余韻のように響いてくる傑作だ。2023/07/22
konoha
65
こんなに静かな文章を書かれるんだと驚いた。表題作はわたしと君、兄弟の性別や年齢、場所もわからない。わたしの語りになぜか惹きつけられる。自伝的小説かとも思ったが、瑞々しく不思議な味わい。タイトルの意味がわかった時のヒリヒリ感がたまらない。「ベイビー、イッツ・お東京さま」は東京で暮らす女性の生き様が楽しくも切ない。松屋での1人ごはんがリアル。チェス納豆と豚ローズのやりとり最高。現場仕事でヘトヘトで同人活動が生きがいで底辺にいるようなアラサー女子だけど、他人とは思えない。個性の異なる2編とも素晴らしかった。2023/06/27
ひさか
49
小説トリッパー2022年冬季号君の六月は凍る、2020年春季号ベイビー,イッツ・お東京さまの2編を2023年6月朝日新聞出版から刊行。六月は凍るのラストで明らかになる事実は唐突。タイトルがアイデアの源流そのものの話のようで、納得できない思いが残る。その点、ベイビー,イッツ・お東京さまの展開は緊張感があり、秀逸で、インパクトがある。こちらが好み。2023/09/27
アーちゃん
45
2編の中篇集。いずれも初出「小説トリッパー」。表題作は純文学のようで、”わたし”を始めとする登場人物の性別を明記していないため、読み手によって感想が変わる。(ちなみに、私はZ以外の全員を女性で読んだ)次の「ベイビー、イッツ・お東京さま」は上京して警備員のバイトをしながら二次創作に萌えるアラサー女性の話。王谷さんの私小説なのか、時代がゼロ年代あたりに思える。こちらはところどころの描写がえらくリアルで『ババヤガ』に通じる暴力性を感じた。2025/08/10