出版社内容情報
85歳超えの退役海女たちは、後進の若者のために潜った海の海図作成に余念がない。カジメやアワビ、海底に突き刺ささる戦時の沈没船、水産大学校出の孫や嫁からきく天皇海山列と春の七草海山……円熟した作家による老女と潜水艦の異色冒険小説。
内容説明
年寄り海女と水産学校卒の孫との、海のものがたり。天皇海山列、春の七草海山、海底につきささる潜水艦…。円熟した作家が名うての文体でいどむ傑作長編。
著者等紹介
村田喜代子[ムラタキヨコ]
1945年、福岡県八幡(北九州市)生まれ。1987年『鍋の中』で芥川賞、97年『蟹女』で紫式部文学賞、98年「望潮」で川端康成文学賞、99年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年、紫綬褒章受章。2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
220
久々の村田 喜代子です。85歳を超えると年齢を倍暦で数える海女たちの風習、海女たちは元気で170歳というよりも、半歴の40歳台のようです。85歳オーバーの海女も信じられませんが、若々しい小説でした。日本書紀等で人とは思えない超長寿の天皇が登場しますが、この倍暦理論で行けば、理解出来ます。私の母もほぼ同世代ですが、骨粗鬆症で背骨が曲がっており、正におばあちゃんです(笑)2021/07/30
ちゃちゃ
121
海女として自在に生きる老女たちの物語。長崎県五島列島近くの魚見島で、女たちは85歳を迎えると年齢を倍に数える習わしがある。“御年170歳の”雁来ミツル。広い波の天井を仰ぎ見て魚のように軽々と海へと潜ってゆく。しかし一方で、海は業の深い怖ろしい場所でもある。海女に取り憑く沈没船の船幽霊。戦後爆沈処分された海軍潜水艦の残骸。戦争で海に沈んだ三人の兄の記憶も相まって、ミツルの心は生と死が溶け合う海の底へと向かう。円熟味を極めた村田さんの闊達でのびやかな筆が描いた、これは戦さで海の藻屑と消えた魂への鎮魂の物語だ。2022/01/05
Ikutan
93
美々浦の浜の海女は、85歳を超えると年齢を倍暦で数える習わしがある。85歳のミツルも同年齢の小夜子と一緒に倍暦海女の仲間入り。目上のおなごは姉さと呼ぶこの島で、二人の先輩を加えた四人の倍暦海女たちは逞しく健やかだ。海を愛して畏れるそんな彼女たちは、寄り合いで海図を作り始める。天皇海山。海没処理された艦船。知らなかった海の中の壮大な風景。想像するだけで圧倒される。そして、眠っている沢山の戦死者。彼女たちが見た兵士の幻霊もリアルだ。三世代の海女一家の日常からは命の繋がりが伝わってくる。生と死を強く感じる一冊。2021/07/18
なゆ
86
「飛族」では空を飛んでしまいそうな婆さまの話だったが、今度は海の中をスーイと潜る逞しい婆さまだ。年寄りおなごを姉さと呼ぶ小さな島で85歳のミツルはアワビ獲りの退役海女だが、相棒の小夜子(85)が仕事を辞めぬので一緒に潜っている。海女には船幽霊がよく憑くそうな。海の底の沈没船や潜水艦。波の下の深海には海山の連なり“天皇海山列“なんてものがあるなんて。同居する孫の嫁の美歌の妊娠。羊水だって、小さな奇跡の海みたいなもの。それらが融合してのラストは圧巻!黒い満身牡蠣殻藻類珊瑚海百合を纏うた巨体、かぁ。しみじみ。2021/10/05
榊原 香織
79
老女海女かっこいい。 五島列島では85になると、倍歴、と言って、年齢2倍になるらしい。でも引退しない。海に潜り続ける。 海底では船幽霊がよく出る。 遣唐使船から日本軍までいろいろ。 霊(たま)出せ 霊だせ と唱えなきゃ危ない。 老女による老女文学、今旬。(老女、よりもっと素敵な言い方はないかな?)2021/08/24
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