出版社内容情報
敗戦後に復員した画家は出征前と同じ人物なのか。似ても似つかぬ姿で帰ってきた男は、時をおかずして失踪してしまう。兵役中に嫁いだ妻、調査の依頼主、画廊主、軍部の関係者たち──何人もの証言からあぶり出される真偽のねじれ。「本物」とは何かを問う、いま最も注目の作家による快作。
内容説明
敗戦後、戦地から復員した画家・平泉貫一は、出征前と同じ人物なのか。似ても似つかぬ姿で帰ってきたものの、時をおかずして男は失踪してしまう。兵役中に嫁いだ妻、調査の依頼主、妾、画廊主、軍部の関係者たち―何人もの証言からあぶり出される真偽のねじれ。調査を依頼された私がたどり着いたのは、貫一が贋作を得意としていたという事実だった。
著者等紹介
高山羽根子[タカヤマハネコ]
1975年富山県生まれ。2010年「うどん キツネつきの」で第一回創元SF短編賞佳作、16年「太陽の側の島」で第二回林芙美子文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
261
おなじ小説を間をおいて読んでみると、あれこんな話だったっけ、であるとか、まえはもっとおもしろかったのになあ、とか、その逆であるとか、そんなふうにおもうことがある。あるいは絵を観ていて、横から見たり正面に回ったり、近づいたり離れたりしていると、まるでちがって見える瞬間がある。おなじ絵が、である。人の顔はどうか。そもそも私たちは人の顔というものを、ちゃんと見ているだろうか。本や絵はひとたび描かれたら変わらないかもしれないが、人の顔は変わる。ほんとうにそうか。変わってしまったのは、あなただろうか、私だろうか。⇒2020/01/09
starbro
203
芥川賞連続ノミネートの2作に続いて、高山 羽根子、3作目です。『模倣』と『坂』の短編2作、オススメは、表題作『如何様』です。本作は、芥川賞受賞候補にはなりませんでしたが、近い内に著者は、芥川賞受賞と相成りますでしょうか?2020/01/18
さてさて
162
『人は、まったく同じものがふたつ以上あると、ひとつを本物、残りを偽物と決めないと落ち着かない生き物なのかもしれませんね』。私たちは本物と偽物ということをどんな場面でも意識するように思います。この作品では、そんな単純な割り切りこそを問う物語が描かれていました。戦後の空気感の描写によってなんとも言えない時代感に魅了されるこの作品。帰ってきた貫一に隠された真相を追う『私』視点の物語に、ミステリアスな雰囲気感を楽しめるこの作品。「如何様」という書名が形作る独特な雰囲気感の物語世界に次第に魅了されていく作品でした。2023/08/31
ケンイチミズバ
137
多くの人が戦地から変わり果てた姿で帰って来る。軍服の一部や南方の石ころだったり。が、男は、五体満足ながら別人で帰還した。戦争は人を変える、戦争では多くの顔の知らない者同士が殺し合った。彼に限らず、あの後、変わらなかった日本人がいるのかねという言葉には大きな説得力がある。戦地で入れ替わった別人でもいいと思える新妻も両親もあの時代ならそう受け入れられたのかもしれない。日本全体があれからリセットされたのだから。本物を知らなければ贋作をとがめる意味すらないし、日本はウヤムヤのまま今の日本を本物の日本だとしている。2020/01/14
モルク
117
大戦後復員してきた男平泉は、家族も彼とわからぬほど顔が変わっていた。果たして彼は本物で戦争が彼の容貌まで変えてしまったのか、それとも平泉にばけた別人なのか、調査を依頼された主人公。最後まで真実はわからないが、平泉の妻タエのおっとりした無邪気な様子が可愛らしい。丘の上で最中を食べ、どこの国のものともわからぬお札を投げるシーンがいい。2021/01/23