出版社内容情報
【文学/日本文学小説】祖父はいつも秘密基地で壁新聞を手作りしていた──大人になった主人公が記憶の断片を追いながら、ある事件と祖父の真相のかかわり合いを探る(「オブジェクタム」)ほか、林芙美子文学賞受賞作「太陽の側の島」など3篇を収録。
高山羽根子[タカヤマハネコ]
著・文・その他
内容説明
小学生の頃、祖父はいつも秘密基地で壁新聞を作っていた。手品、図書館、ホレリスコード、移動遊園地―大人になった今、記憶の断片をたどると、ある事件といくつもの謎が浮かんでは消える。第2回林芙美子文学賞受賞作「太陽の側の島」も同時収録。
著者等紹介
高山羽根子[タカヤマハネコ]
1975年富山県生まれ。2010年「うどんキツネつきの」で第一回創元SF短編賞佳作を受賞。2016年『オブジェクタム』収録の「太陽の側の島」で第二回林芙美子文学賞で大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
203
平易な文章でつづられる日常、のはずが、どこか不思議な異和をかんじる。ねじれてはいないが、ずれている。階層がちょうど一段ちがっているような、奇妙な感覚の差異。それは記憶であるがゆえのあいまいさなのか、そもそも異界のはなしなのか。すらすらと読めて、気づいたときにはもう別の層へ連れ去られている。あれ?おかしいな、と戻ってみても、どこでずれたのか、その境目は判然としない。新人らしい粗さは残るが、独特の感性が光る。不気味ではないが、居心地はすこぶるわるい。でもそれがなぜだか妙に心地いい。2019/03/01
さてさて
171
『ここで新聞作りの手伝いをすることが、ゲームをしたりマンガを読むことより退屈なものになるということはなかった』。“秘密基地”でじいちゃんと『カベ新聞』作りに勤しんだあの時代のことを振り返る主人公を見るこの作品。そこには、ノスタルジックな思いに包まれる物語が描かれていました。一つの中編と二つの短編が全く異なる印象をもたらすこの作品。表紙の不思議なイラストも気になるこの作品。淡々と描かれる日常生活の事ごとが、いつの間にか夢幻世界に読者を引き摺り込んでしまう高山さんの真骨頂を見るなんとも不思議感漂う作品でした。2023/08/28
ケンイチミズバ
109
例えばカセットデッキがこの世から消えてしまえばカセットテープの中身を知ることができない。老いて亡くなった後に残されたものが発見され世間を騒がせたとしても生きてるうちに伝承がなければ真意は伝わらないまま。祖父が残した特殊な媒体ホレリスコードを解読できる機械が渋柿さんの印刷工場にあるが老朽化し作動できなかった。最後の新聞に残された暗号なのか解読されないままなのがもどかしい。父は祖父の思い出が少なく少年は結局祖父の情熱が何なのかわからずじまい。著者の言いたいことは明確で、これを8月に読んだことも意味はあったか。2020/08/25
k5
84
気になっていた作家さんが芥川賞を取ったので、読む。「電脳コイル」みたいな表題作もいいのですが、「太陽の側の島」がすばらしいことこの上ない。ていうかJ.G.バラード風味の「おかしな男の夢」だなあ、と思ってWiki見たら、「おかしな男の夢」についてのエッセイがあるんですね。読みたい。表題作に戻ると、主人公の少年が女性っぽい名前(サト)なのは何か意味があるのかな?男湯に入る描写が最初の方にあるし、言葉づかいなどジェンダー的には完全に男なんですが、どこからか女性性が滲む気がして。2020/07/19
野のこ
75
表題を含む全三作。「オブジェクタム」なんだろうと調べたら、オブジェクト[物体、目的。オブジェクタト指向?]たくさんのオブジェクタムが出てきたように思いました。表紙もそうですね。夢を見ているような、幽体離脱しているようなふわふわと浮遊しているみたいな読み心地。幻想的な風景。ユーモラスもあってそのバランスが良かったです。文章が丁寧でゆっくりと読みたく少し時間がかかりました。そういえば高山さんの「うどん キツネつきの」も良かった。これからも注目したい作家さんです。 2018/09/08