出版社内容情報
伍代藩士の楠瀬譲と栞は互いに惹かれ合う仲だが、譲は藩主の密命を帯びて京の政情を探ることとなる。やがて栞の前には譲に思いを寄せる気丈な女性・五十鈴が現れる――。激動の幕末維新を背景に、己の思いに忠実に生きた男女の清冽な姿を描く長編時代小説。
内容説明
勤皇佐幕で揺れ動く九州・日向の伍代藩―。軽格の家に生まれた楠瀬譲は、恩師・桧垣鉄斎の娘・栞と互いに惹かれあう仲であった。蘭学に秀でた譲は、藩主・忠継の密命で京の政情を探ることとなる。やがて栞の前には譲に想いを寄せる気丈な娘・五十鈴が現れるが―。激動の幕末維新を背景に、懸命に生きる男女の清冽な想いを描く傑作長篇時代小説。
著者等紹介
葉室麟[ハムロリン]
1951年、福岡県生まれ。地方紙記者などを経て、2005年に「乾山晩愁」で第二十九回歴史文学賞を、2007年に『銀漢の賦』で第十四回松本清張賞を、そして2012年に『蜩ノ記』で第百四十六回直木賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤枝梅安
75
適塾で学んだ楠瀬譲と、譲の恩師である桧垣鉄斎の娘・栞という二人を軸として、幕末の動乱に翻弄される九州の小藩が生き残りを図る物語。譲との婚儀を望んでいた五十鈴の真っ直ぐな生き方。五十鈴に魅かれ、正室とした藩主・忠継。自分の情動に素直に生き抜いた健吾など、史実と架空の登場人物を絡み合わせるこの作家お得意の手法で、時勢に左右されず自分の生き方を貫く男女の姿を描き、静かな感動を与えてくれる。テレビドラマになりそうな一編。続編があるのかなぁ。 2013/05/27
B-Beat
63
◎面白かった。これまで読んだ葉室作品の中で初めての本格的幕末もの。舞台は勤皇佐幕で揺れ動く九州日向伍代藩5万石。藩主より抜擢され藩政改革の任につく男とその男の恩師の娘。二人はお互いに惹かれ合うが幕末動乱の時勢に翻弄されるといった展開。長州の攘夷決行あたりから廃藩置県断行までを史実を巧みに絡ませながら爽やかに描いてみせたという感じ。「薩摩が怪しい」と会話される場面は秀逸。そこから一気に読み切った。幕末のおける小藩が決して日和見ではなく、それなりに激動の時代を乗り切ろうとして描かれていたのが新鮮だった。2014/05/01
くりきんとん99
61
葉室さんの作品らしく淡々と書かれているが、今までの作品よりも尚一層、淡々と史実が書かれているように感じた。それでも、栞や五十鈴ら、女性たちの強さが際立っていたように思える。「この君なくば、一日もあらじ」という言葉を胸に一生を過ごしたであろう栞に強く惹かれる。2012/12/24
きりこ
54
幕末の尊王攘夷倒幕派・左幕派の対立・戦いを背景に毅然と生きた人びとの姿が描かれていました。 晋書や老子の言葉を引用してと葉室麟独特の端正な文章で綴られていています。譲をひたすら待ち続けるばかりの栞の姿が健気だなぁと思いました。 時代の変わり目の混沌とした世の中で、困難に立ち向かう楠瀬譲も栞も藩主夫妻も凛として、清々しい読後感でした。 2012/12/18
ゆみねこ
44
九州は伍代藩という架空の小藩を舞台にした幕末ラブストーリーと思って読めたら素直に楽しめる作。「明治の新政府は尊王でも攘夷でもない、不忠臣蔵じゃ。今より先この国を動かすのは、藩を離れ身分を離れても、なお、おのが信義の道を行く者たちであろう」五十鈴さんの名言!つい先日佐々木譲さんの「武揚伝」を読んだばかりなので時代背景が良くわかってなお楽しめた。2013/02/07