内容説明
一九二三年九月の関東大震災の時、朝鮮人や社会主義者に対する虐殺とともに、なぜ中国人に対する虐殺があったのか?証言と史料の発掘によって、周恩来の親友で、東京で日本在住中国人のためにセツルメント活動をしていた若き中国人リーダー王希天(一八九六‐一九二三)の死の真相に迫り、政府ぐるみの隠蔽工作を明らかにするドキュメンタリー。特に加害者へのインタビューは圧巻である。
目次
序章 五九年目の新証言
第1章 死地へ赴く
第2章 大島町事件
第3章 早暁の虐殺
第4章 王希天を語る
第5章 隠蔽の企み
第6章 日中間の大問題に発展
第7章 すれ違う日中会談
第8章 日中関係史の袋小路
終章 事件発掘史
著者等紹介
田原洋[タハラヨウ]
1938年、福岡県北九州市(小倉)生まれ。1963年、東京教育大学仏文科卒業後、東京タイムズ記者(社会部、政治部)。1975年からフリーとなり、新聞・雑誌等に寄稿。1980年、国会議員政策秘書。1998年、NTTアド嘱託、2003年退職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
28
1982年初出。正直言って気が滅入った。惨事便乗で群衆心理により、不当殺人された朝鮮、中国人が結構いた(13頁)。法治国のへったくれもない蛮行が発覚するのは、警察側の反軍感情のおかげ。ケガの功名。社会主義者ハ国家ニ有害(118頁)。日本政府、隠蔽を正式決定。現代の特定秘密もまた、その歴史を踏まえて出てきたと思えば、この歴史的文脈を絶ち切ることの難しい日本という社会を嘆く以外なのか。2015/01/11
jamko
16
本書は突然、この王希天事件を隠蔽した人物の告白と、まだ生存していた実行者へのインタビューで幕を開ける。スリリング。中国人労働者の環境改善のために働いた王希天という人のこと、その彼が殺害されたこと、そして関東大震災直後に朝鮮人だけでなく中国人も多く虐殺されてたことを知れてよかった。〈諸々の要因によって差別する思想、人権より国益を優先させる思想が生き続けるかぎり、差別される側に生まれたものの「被虐殺の危険性」も、また続いている。〉これらの事件を解明すること、何度でも振り返ることの意味は大きいと日々思う。2019/03/21
みなみ
4
変な感想だが、ネトウヨ的思想の文化人?がマスメディアを席巻する現代日本でこの本を読むと、著者の姿勢は驚くほど人道的だ…大島事件は他書で読んで地元に近いのでこんなこと知らなかった!と驚愕した。偶然書店の棚でこの本をみつけて読んだ。中国人や朝鮮人(当時)を同じ人間だと思っていないからこんな残虐なことができるんだろうな。王希天殺害事件の隠蔽を閣議決定、のくだりでは「日本は当時からなにも変わっていない」と愕然とした。書類は捨てちゃうし嘘書くし。2017/05/12
うたまる
2
「武器も持たず、抵抗する意思も持たない一人の人間を殺るなんて!それをどうやって握りつぶせというのか」……関東大震災時の王希天を含む中国人虐殺についてのノンフィクション。恥ずかしながら当時300名にも上る中国人虐殺があったことを知らなかった。またそれが恐慌状態に陥った市民ではなく、治安維持に当たった軍人が行ったことも。これも敗戦にまで至る軍の暴走過程の一つなんだろうが、こういう無法と隠蔽を許す体質は大きなしっぺ返しを受けたはずの現在もそこかしこに歴然と残っている。本件がそうであるように、必ずばれるのにね。2016/02/01
Fumihiko Kimura
2
若干の特定思想臭がせぬでもないが、「王希天事件」なる事件を発掘した功績はやはり大きいと云うべきだろう。後の最高裁長官横田正俊の王氏の回想や、同じく後の宮内大臣、内大臣として知る湯浅倉平の警視総監としての関わりなど興味深い。2014/08/25
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