内容説明
一九六一年三月、三重県と奈良県にまたがる小さな村の懇親会でブドウ酒を飲んだ女性五人が悶死。裁判所は「三角関係のもつれによる犯行」として奥西勝に死刑判決を下した。しかし、その判決根拠となった村人たちの供述には矛盾が目立ち、唯一の物証である歯型鑑定も疑問だらけだった―。注目の再審事件の真相に江川紹子が迫る。
目次
第1章 事件
第2章 大家族
第3章 証言
第4章 自白
第5章 天国と地獄
第6章 再審の扉
第7章 四十年後の再審決定
著者等紹介
江川紹子[エガワショウコ]
1958年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。神奈川新聞社会部記者を経て、フリージャーナリストに。新宗教・災害・冤罪のほか、若者の悩みや生き方の問題に取り組む。95年、一連のオウム真理教報道で菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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gtn
13
ワインをブドウ酒と呼んでいた頃の事件。1961年に逮捕され、死刑が確定し、2012年の死まで拘置所、医療刑務所を出ることがなかった奥西死刑囚。読了後、奥西の冤罪を確信する。男は、三角関係の悩みぐらいで女性を亡き者にしようとはしない。まず自分がその場から逃げる。2019/09/02
加藤久和
9
故奥西勝さんは無実だ。警察官の誘導が入る前のより真実に近い関係者の証言から合理的に考えれば、酒屋からブドウ酒が運ばれある場所に一時保管された後、ぶどう酒の存在を知ることができなかった奥西さんによって持ち出されるまでの1~2時間の間に、真犯人は奥西さんが持っていたという農薬ニッカリンT以外の毒物をぶどう酒に投入したのである。それが可能だったのは誰なのか?奥西さんは警察、検察、裁判官と地元村の住民達によって冤罪の罠に嵌められ人生を奪われてしまったのである。いつの日かすべての真実が明らかになることを切に願う。2016/06/29
Ikuto Nagura
7
検察も裁判所も、真相を究明しようとか、正義を実現しようという場ではないわけだ。奥西氏が亡くなり有耶無耶になるのを待つ事件処理…。加えて村社会の百姓根性。「彼等(村の人)には、一個人の人権や真実を究明することよりも、部落全体の平和の方が大切なのだ。一人ひとりの涙や怒りも、部落の和を守るために水面下に押さえられてきた。そしておカミには従順だった。それまでも、ずっとそうやってきた」しかし、江川氏が指摘する通り、部落は企業や組織に置き替えられる。半世紀前の古い慣習下の出来事ではなく、現代日本社会の問題であるのだ。2014/09/08
駄目男
6
帝銀事件や名張毒ブドウ酒殺人事件に関して持つイメージはただひとつ。 もし自分が真犯人なら有罪が下った時点で、あくまでも生涯を賭けて嘘を突き通せるだろうかという一点に尽きる。 最高裁で死刑判決が確定し、それでも何十年もの月日を費やして再審請求を出し続けるだけの忍耐力は少なくとも私に関してはない。 何故なら犯人は自分であることを誰よりも知っているわけだし、周囲の人を欺いて敢然と無罪を勝ち取るまで闘う気力などない。 どうもこの事件は冤罪の臭いがするが。2015/04/16
リEガン
6
本件や袴田事件、古くは福岡事件、最近では飯塚事件に象徴されるが、日本の警察、検察、そして裁判所は、いい加減な立証でも平気で断罪を下せるし、例え誤りが判明しても決してそれを正そうとしない。面子が一番。2011/04/22