出版社内容情報
1964年,沖縄普天間で米兵殺傷事件が起きた.容疑者は沖縄の青年4人.果して彼らは問われているような重罪を犯したのか.アメリカ統治下,陪審員として裁判にかかわった著者が再現する,息づまる法廷ノンフィクション.
内容説明
一九六四年、アメリカ支配下の沖縄普天間で米兵殺傷事件が起きた。容疑者は沖縄の青年四人。裁判の陪審員に選ばれた著者は、沖縄人に重罪を課そうとするアメリカ等の陪審員が多数を占める陪審評議で、ついに「逆転」を生じさせた。裁判のあり方をも考えさせる息づまる法廷ドキュメント。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
目次
第1部 被害者と加害者たち(発端;ウィリアムス一等兵とオズボーン伍長 ほか)
第2部 裁判(陪審員への厳しい注意;“白い影”の男 ほか)
第3部 陪審評議(紛糾また紛糾;一対十の絶望的戦い ほか)
第4部 判決(“見せしめ”の刑;神のみぞ知る)
著者等紹介
伊佐千尋[イサチヒロ]
1929年東京に生まれる。78年『逆転』で第九回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。82年「陪審裁判を考える会」を発足
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感想・レビュー
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遥かなる想い
174
第9回(1978年)大宅壮一ノンフィクション賞。 1964年アメリカ支配下の 沖縄普天間で 起こった米兵殺傷事件を めぐる克明な裁判の記録である。 陪審員として この 裁判に関わった著者の視線が 当時の沖縄の 状況を現代に蘇えらせてくれる。 法廷における通訳が果たす役割の大きさ… 返還前の事件がどう裁かれたのか? 貴重な戦後の記録である。 2018/04/20
James Hayashi
33
「12人の怒れる男」の沖縄版。1964年、沖縄が日本復帰前の話である。4人の沖縄青年により米兵殺害事件が起きた。アメリカ民政府なるものが存在し、米軍関係者に係る犯罪や米国民政府の機関に対する犯罪については、これを別個に処罰するため集成刑法が適用。傷害致死は日本法で最高刑20年だが、修正刑法では死刑という不利順さがある。あるのは警察によって書かれた供述書(自供として警察が書き被告がサイン)のみ。米軍に甘い警察はこんなものであろう。しかし弁護人の弱さがこの結末を導いたのは高評価。続く→2018/07/15
James Hayashi
21
事件は沖縄が日本に返還される前の64年(昭和39年)、琉球列島米国民政府に牛耳られていた頃の実話。注目したのは、事件から1ヶ月後あまりで裁判が始まっている事。またこの状況の中で日本国憲法の一部なども取られ、チャンポン状態な沖縄。言葉も沖縄語と訳語で判決に微妙に影響が出ている事。集成刑法なるものを用い、かなり懲罰的な威力を発揮でき、現にこの裁判で見せしめ的な判決。陪審制の良い面が知れる作品だが、裁判員制がそれを引き継いでいるとは言い難い。また民政府は無くなったが、地位協定は存在する。いろいろ考えさせられる。2020/04/19
いとう・しんご
7
RBCiラジオきっかけ。'64年に起った米兵殺害事件の容疑者として起訴された沖縄青年4人に対する不当裁判に陪審員として対決した著者の記録。在沖米軍の主導する報復的な事件処理の不当性もさることながら、陪審制度によって市民の声を受け入れていても、司法官の恣意に左右される法律の怖さは実は現代日本の、まさに今、目をこらせば顕在化しつつある問題そのものでもある。原著は'77年と若干古くなってしまったお話だけれど、問題提起そのものは、沖縄問題としても、司法制度問題としても、今なお大きな示唆を失っていない。2024/07/10
SAKU
2
沖縄がアメリカ占領下にあった時に起こった米兵殺害事件の裁判が描かれた作品。著者が実際にこの件の陪審員になり、占領下での沖縄県民の被告に対する「作られた有罪のストーリー」に最初1人で異を唱え、ほかの陪審員と意見がぶつかりながらも無罪という結論にまとめ上げた。裁判への国民の参加、そして占領下での沖縄の弱い立場について考えさせられる。今でも沖縄の人は占領下での記憶は消えていないのだろう。2016/07/17