内容説明
著者が深く関心を寄せた人物をめぐる講演・評論を収める。吉野作造の憲法・国家観、宮沢賢治にとってのユートピア、丸山眞男の戦争責任論、チェーホフの笑劇・喜劇…自らの知的好奇心と重ねつつ、それぞれの生き方と著作から「現代へのメッセージ」を読み取っていく。「むずかしいことをやさしく」解き明かす語り口は、著者ならではのもの。併せて、笑いの本質に迫るエッセイを収録する。
目次
1 憲法は政府への命令―吉野作造を読み返す(日清・日露戦争と大正デモクラシー;「立憲」を大きく、「君主」を小さく ほか)
2 ユートピアを求めて―宮沢賢治の歩んだ道(父との関係、うつ状態;日蓮宗、家出、躁状態 ほか)
3 戦争責任ということ―丸山眞男に私淑して(「一億総懴悔」と「御聖断」;天下に三つの会談記録 ほか)
4 笑劇・喜劇という方法―私のチェーホフ(滑稽小説家の登場;笑劇の方法 ほか)
5 笑いについて(ジョン・ウェルズの笑い;アリストテレスの笑い ほか)
著者等紹介
井上ひさし[イノウエヒサシ]
1934年‐2010年。山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生れる。上智大学外国語学部フランス語科卒業。放送作家などを経て、作家・劇作家に。72年、『手鎖心中』で直木賞受賞。小説・戯曲・エッセイなど幅広い作品を発表する傍ら、「九条の会」呼びかけ人、日本ペンクラブ会長、仙台文学館館長なども務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
フム
21
吉野作造、宮沢賢治、丸山眞男、チェーホフ…と、井上ひさしが関心寄せ受け継いだものがある人物についての講演記録と評論である。井上ひさしは喜劇作家として、同じ時代を生きる普通の人々の暮らしを見つめ題材にした。チェーホフについて書いた「笑劇・喜劇という方法」に「人間は笑劇じみたドタバタ劇を演じ、時には人生の落とし穴に自分ではまっていやいやながらも悲劇の主人公さえ演じてしまう。そういった人間たちの生き方、死に方を冷徹だが温かくもある目で見つめながら人生のその真実を書き続けた」とある。井上ひさし自身のことだと思った2020/01/16
Lara
18
講演とエッセイが一つになった本。「吉野作造」「丸山真男」に関しては、それぞれに、さらに読んでみたくなりました。2019/10/19
k.m.joe
6
吉野作造、宮沢賢治、丸山眞男に関する講演記録と、朝日新聞夕刊に連載されたチェーホフに関する投稿と、未完だが『図書』に連載された「笑いについて」というエッセイを纏めた一冊である。 吉野作造に関する03年の講演記録では、「大正デモクラシー」思想の正当性や、日本国憲法が押し付けられたものではない事実を強調されている。 2022/11/24
yuki
5
「戦争責任」についての丸山真男さんについてのところが印象的でした。ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」を読んでいたので、なるほどって共感することが多かったです。井上ひさしさんの新しい一面を知りました…もっと読んでみようと思います。2019/10/10
みさと
4
井上ひさしが語る「この人」とは、吉野作造の憲法・国家観、宮沢賢治にとってのユートピア、丸山眞男の戦争責任論、チェーホフの笑劇・喜劇など。難解なテーマを軽い口調でやさしく語る。さすがである。丸山眞男にからめて、井上ひさしが独自に入手した史料から、広田弘毅による、敗戦間際になされた和平交渉の仲介を依頼するための対ソ交渉のお粗末さと日本の指導者たちの情けなさの暴露が興味深い。そしてチェーホフ。そんな興味深い人がいたんだ。読まなきゃ。われわれが受け継ぐべき「この人」の筆頭が井上ひさしその人であると気づかされる。 2019/11/08