出版社内容情報
19世紀カナダで起き、世界中で話題となった殺人事件を素材に、当時の風俗・価値観を織りこみながら、ミステリー仕立てに、人間存在の根源を問いかける。巧みな心理描写で読む者を惹きつけるアトウッドの最高傑作(上下巻の下)。
内容説明
殺人事件で犯人とされた美女は事件を主導した「魔性の女」だったのか、それとも歴史に翻弄された犠牲者だったのか。一九世紀カナダで起き、当時世界中で話題となった殺人事件の記録を素材に、巧みな心理描写を織りこみながら、ミステリー仕立てに、人間存在の根源を鋭く問いかける。ノーベル文学賞候補ともいわれるカナダの女性作家、マーガレット・アトウッドの傑作。
著者等紹介
アトウッド,マーガレット[アトウッド,マーガレット] [Atwood,Margaret]
1939年生まれ、カナダを代表する作家・詩人。作品は世界各国で翻訳され、カナダ総督文学賞、ブッカー賞など数多くの文学賞を受賞
佐藤アヤ子[サトウアヤコ]
明治学院大学名誉教授。日本カナダ文学会会長。日本ペンクラブ常務理事。英語圏文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
137
グレイスや、彼女に対峙するサイモンの描かれた方が、どうにも少し不自然に思えて仕方なかった。騙されちゃダメよ、とサイモンに対して思うも、そう考えてしまうこと自体が作者の誘導のような気もした。そして、最後の作者の解説を読んで、アトウッドは彼女なりのグレイスを描きたかったからかな、と勝手に解釈。どういう視点で読むかで味わいも変わるという、さすがのアトウッドの筆による力作だが、グレイスに彼女が振り回されたのではないかしら。(佐藤アヤ子訳:岩波書店)2019/01/21
ケイ
96
再読。グレイスの告白には、目を見開いてしまうような有罪につながりかねない言葉が散見され、その度に翻弄される。小説内で彼女に対峙したものは、結局引き下がるをえない状況に追い込まれる。どうなの、グレイス? 解説によると、過去にグレイスについて書かれたものを(醜聞と偏見に満ちた書き物を)焼き直してドラマの脚本にしたアトウッド。グレイスが彼女に書き直させたのだ。アトウッドが執筆する最中、後ろから見守る(見張る?)グレイスが感じられる。どちらにしても人の心を動かすオンナであることは間違いないわね。2024/04/21
かわうそ
38
主人公が殺人事件に至るまでの詳細な経緯に、正気と狂気の境界線といったテーマや、当時の女性の立場をはじめとする歴史的な背景が重層的に描きこまれて読み応え抜群。「事実」というのは、証拠を積み上げてはっきりと解き明かされるものではなく、複雑な人間関係や繊細な人間心理の機微を通じた全体像としてしか提示できないもの、という話だと感じた。2018/11/20
ふるい
23
傑作。ぐいぐいと読まされる力のある作品。"グレイス"、はたしてその名が象徴するものは?19世紀の上流階級と下層階級の人々の間の隔たり、そして女性たちが男性からどんな風に偏見の目で見られていたかなど、当時の様子が興味深い。グレイスは運命の悪戯としか言いようがない不幸な道を歩むが、毅然とした態度を崩さないようにしている。読んでいて、そんなグレイスに励まされるようだった。彼女が最後に作ったキルトはどんなだろう?2019/03/03
すーぱーじゅげむ
21
訳者あとがきに最高傑作とあり、大賛成です。最後の方、手紙でのストーリー回収の鮮やかさ、本の中のキルト模様の仕掛けに気づいたときの驚き。途中までは事件の真相やサイモンが誰とくっつくかでわくわくして、「パンドラの箱」の章で起こったことでいろいろなことの転換があって痺れます。故メアリーが語った、理想の結婚相手の話もよかったです。小説として本当に優れていて、テーマに興味がわかなくても、小説好きな人にはぜひともおすすめしたいです。2024/05/11