出版社内容情報
アナーキスト大杉栄と伊藤野枝。二人の生と闘いの軌跡を、彼らをめぐる人々のその後とともに描く、大型評伝小説。
内容説明
「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄)四角関係による刃傷沙汰、日蔭茶屋事件を経て、深く結びついたアナーキスト大杉栄と伊藤野枝。大杉の幼少期から関東大震災直後の甘粕正彦らによる虐殺まで、二人の生と闘いの軌跡を、神近市子、辻潤、武林無想庵、有島武郎ら、行き交うさまざまな人物の人生とともに描いた、大型評伝小説。名著『美は乱調にあり』から一六年の時を経て成就した、注目の完結編。
著者等紹介
瀬戸内寂聴[セトウチジャクチョウ]
1922年、徳島生まれ。東京女子大学卒。57年「女子大生・曲愛玲」で新潮社同人雑誌賞受賞。61年『田村俊子』で田村俊子賞、63年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。73年に平泉中尊寺で得度。法名寂聴(旧名晴美)。92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、96年『白道』で芸術選奨、2001年『場所』で野間文芸賞、11年に『風景』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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榊原 香織
65
上下巻の上。 前作”美は乱調にあり”を読んだのは高校生の時。 大杉栄、伊藤野枝の周りの様々な人々。以前より知った名前がずいぶん多くなりました。 社会主義、アナーキスト、女性運動、にぎやかな大正時代2023/09/28
harass
60
「美は乱調にあり」の続編。なぜ前作は日影茶屋事件で終わってしまったのかが冒頭で説明がある。甘粕正彦の人物像が著者の中でぼやけていて彼の起こした虐殺事件を書けなかったそうだ。奇縁ともいえる甘粕についての意外な出会いから評伝小説は始まる。上下巻に分かれていてそこまで書くことあるのかしらと、考えつつ読んでいったが、辻潤などの彼らと関係のある人々を掘り下げていく。実に個性的な人々たちの集いだ。一気に読み上げ、下巻に。2017/04/24
きいち
36
16年の時を経て寂聴となり、新資料を得て「時が熟した」と再開された物語。「美は乱調にあり」同様、野枝に走った大杉を刺した神近市子のその後や、荒畑寒村への病室インタビュー、そして全国から舞い込む縁者の証言など二人の話よりも周辺がたっぷり語られてゆくなか、大杉の下獄で一人になった野枝の覚醒・起動が光る。「他人によって受ける幸福など、どこに信が置けるだろう」(246頁)。決してヒギンズ教授的ではない、あくまで主体として野枝を成長させようとした辻潤と大杉の達成に見える。それは二人にも反射していくはず。◇止まらん。2017/04/29
たまきら
35
圧倒される取材力、構成力、文体。一気に読み終えてしまった。自分こういう男も女も大嫌い。自分の権利だけを声高に叫び、建前は美しくても、実際大儀を実現するための牽引力も度量もない。他の作家の本でも実際には下町の労働者の元で怯えるだけだった伊藤らの逸話が出てくるが、こちらではもっと具体的に描かれている。田舎のインテリ・エセ貴族趣味の嬢ちゃん坊ちゃんと労働者のリアルに悲しい笑いが。甘粕の逸話にはぞっとした。権力者が使いやすく壊れてる感じで…。しかしさすが、女を書くの巧いなあ!2017/04/06
フム
20
『美は乱調にあり』続編。関東大震災のどさくさで虐殺された大杉栄と伊藤野枝の短い生涯を書こうとしたこの小説は、神近市子が日陰茶屋で大杉を刺す事件で一旦筆を折っている。その理由は二人を殺した甘粕という人物の実体がつかみきれなかったからだ。小説の連載中、読者から手紙や電話をもらうそうだが、その中の甘粕善人説を聞いているうちに、見定めていた甘粕像に黒い霧がかかって書けなくなった。雑誌に連載する小説とは作家の思惑をこえて生きているようだ。この上巻にも作中人物ゆかりの読者からの手紙が所々で紹介されていて深みを増す。2019/05/31