出版社内容情報
「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄) 瀬戸内寂聴の代表作にして、伊藤野枝を世に知らしめた伝記小説の傑作が、続編『諧調は偽りなり』とともに文庫版で蘇る。婚家からの出奔、師・辻潤との同棲生活、『青鞜』の挑戦、大杉栄との出会い、そして日蔭茶屋事件――。恋に燃え、闘った、新しい女たちの人生。
内容説明
「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄)瀬戸内寂聴の代表作にして、伊藤野枝を世に知らしめた伝記小説の傑作が、続編『諧調は偽りなり』とともに文庫版で蘇る。婚家からの出奔、師・辻潤との同棲生活、『青鞜』の挑戦、大杉栄との出会い、神近市子を交えた四角関係、そして日蔭茶屋事件―。その傍らには、平塚らいてうと「若い燕」奥村博史との恋もあった。まっすぐに愛し、闘い、生きた、新しい女たちの熱き人生。
著者等紹介
瀬戸内寂聴[セトウチジャクチョウ]
1922年、徳島生まれ。東京女子大学卒。57年「女子大生・曲愛玲」で新潮社同人雑誌賞受賞。61年『田村俊子』で田村俊子賞、63年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。73年に平泉中尊寺で得度。法名寂聴(旧名晴美)。92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、96年『白道』で芸術選奨、2001年『場所』で野間文芸賞、11年に『風景』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
60
初寂聴。伊藤野枝の評伝小説。著者は旅行先の福岡で、大杉伊藤の遺児、魔子に出会うことになった。すでに魔子は50歳に近く、彼女の話す父と母の思い出から、小説は始まる。人間的に過剰というか、恋愛強者というかそういうアクが強い連中ばかりだ。著者の目は彼らを賛美するよりも突き放している。「日影茶屋事件」で終わってしまった。残りは続編か。平塚らいてうや辻潤など、個別に興味を持った。当時のジャーナリズムでも今でも、こんな事件と彼らはいい見せ物だったろう。流行作家のサービスに富んだエクリチュールを感じる読書だった。2017/04/21
Sam
51
伊藤野枝と大杉栄の評伝。著者が伊藤の故郷を訪れ近親者から話を聞くところから静かに始まるのだが、途中から登場人物たちがうねうねと動き始め、「これって評伝?」と首を傾げたくなるほど生々しくむせ返るような愛憎の物語に転化していく。瀬戸内寂聴さん初読みだがお人柄同様(?)非常に情熱的な文章を紡ぐ方とお見受けした。後編「諧謔は偽りなり」も読んで2人の最後をしっかり見届けようと思う。2022/08/18
おたま
48
栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』で伊藤野枝の生き方を知り、さらに詳しく知りたいと紐解いた。寂聴さんがまだ瀬戸内晴美だった頃の作品。婦人解放の先駆であった『青鞜』の一員であった野枝の、短いが熱く濃密な人生が描かれている。ただし、この本ではダダイスト辻潤やアナキスト大杉栄との出会いと愛憎が描かれているが、大杉が神近市子に刺される「日蔭茶屋事件」まで。どちらかというと、『青鞜』の立ち上げの熱気や、『青鞜』の中心人物平塚らいてうや神近市子の方にむしろ焦点は当てられているように思う。2022/01/07
きいち
35
続編とまとめて再刊されてるのに書店で出会い飛びついた。「村に火をつけ~」の効果だろう、すばらしい。◇とはいえこの小説、大杉と野枝よりも回りの人びとに引き付けられる。同じ一人称でも、共感してしまうのは野枝を育て奪われる辻潤であり、大杉を奪われ刃傷沙汰を起こす神近市子だ。平塚らいてうや彼女を慕う紅吉もいい。◇そうして改めて冒頭の瀬戸内の福岡訪問に立ち戻りたくなる、大杉と野枝の子供である魔子やルイズ、彼女たちを引き取った叔母や妹たちがとても魅力的に語られているのだ。主人公二人は置いてきぼり、それがとても面白い。2017/04/18
sansirou
25
伊藤野枝を知りたくて読み始めた。辻潤との関係や平塚らいてうとの関係がなかなか興味深かった。しかし大杉栄の自由恋愛は男にとって都合のいい理論だなあ。階調は偽りなり、も読まなくちゃね。2022/01/30