出版社内容情報
晩秋の武蔵野、明子は、カラスウリの実がたわわに垂れる家で女子大時代の先輩蕗子と運命の再会をした。満洲事変から破局へとすすむ激動期に、深い愛に結ばれて自立をめざす2人の魂の交流を描く。児童文学にうちこみながら、心の奥底に温めつづけた著者生涯のテーマを、8年かけて書き下ろした渾身の長編1600枚。全2冊。
内容説明
晩秋の武蔵野、明子は、烏瓜の実がたわわに垂れる家で、女子大時代の先輩蕗子と運命の再会をした。ゆたかな才能をもてあますように奔放に生きる蕗子と、くもりのない批評意識をもって日々を真摯に生きる明子。二・二六事件前後の激動の時代に、深い愛に結ばれ自立をめざして青春を生きた二人の魂の交流を描く。第四十六回読売文学賞受賞作。
著者等紹介
石井桃子[イシイモモコ]
1907年埼玉県浦和に生まれる。日本女子大学校英文学部卒業後、文藝春秋社、新潮社で編集に従事。戦後、宮城県鴬沢で農業・酪農をはじめる。その後、1950‐54年、岩波書店で「岩波少年文庫」「岩波の子どもの本」の企画編集に尽力。一年間の海外留学をへて、荻窪の自宅に私設の図書室「かつら文庫」を開く。長年にわたり児童文学作家、翻訳家として活躍。2008年4月、101歳で逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はる
66
石井桃子さんの自伝的小説。大学を出て働いていた明子は、ある日偶然、大学時代の憧れの存在だった蕗子と出会う。生真面目で慎重な明子は、自分とは正反対の奔放で無邪気な蕗子に惹かれ、二人は強い友情で結ばれていく……。当時の結婚観や女性の立場などがうかがえて興味深い。2.26事件なども登場するきな臭い時代だが、意外と物が溢れ自由な雰囲気。二人で旅する場面は本当に楽しそう。気掛かりは、肺を病む蕗子の病状だが……。2023/11/03
あたびー
35
昭和初期。一人女子アパートに暮らしながらNPO的事務所で働く明子は、ふと1軒の家に鮮やかな烏瓜の実を目にして立ち止まる。そこで女子大時代の先輩蕗子に再会する。…というオープニングから、百合への期待満々で読み始めたが、この巻の後半で明子は結婚生活に入り、期待はあえなく消えた😅割と最近に出た本。舞台となった時代に出ていたら『細雪』の様に出禁になったかもしれない。世情の雲行きが怪しくなってきつつある時代の普通の都会生活を綴ってあるから。夫と、蕗子への友情の板挟みになっている明子の今後は下巻へ続く。2024/11/05
杏子
30
ふとした出来心で手に取った本書。上巻だけで500ページ近く。読めるかどうか危ぶまれたけれど始めてみれば、けっこうすらすらと。石井桃子さんの大人向け小説?タイトルだけは聞きかじっていたもの。女性の人権が定かでなかったような時代に生きた二人の女性の半生が、石井さんの真摯な文章で描かれています。とくに明子が節夫に出会ってからのことが、あの頃の女性の結婚がどんなものだったのか?考えさせられます。今と違って幼少の頃から男女分けられて育ってきたことなど。その時代の雰囲気を味あわされます。下巻を読むのが楽しみ。2016/05/08
Ryuko
27
女子大の先輩後輩だった蕗子と明子の間に育まれる友情。いや、友情というよりは、同志愛、そして魂の共鳴。あふれる才能を持て余し、自由にいきるものの肺病やみの蕗子。両親もなく、職業婦人として生きるものの後見人からは、結婚をせっつかれる明子。明子の兄の友人との恋愛に心ときめく。自伝的小説とのことだが、この先どうなるのか?悲劇の予感に怯えつつ下巻へ。2018/09/07
わん
8
うさこちゃんシリーズや『ちいさいおうち』など児童文学作家、翻訳家として活躍した石井桃子さんの自伝的小説・上巻。時代は二・二六時件前後、2人の女性「蕗子と明子」の心の交流を描く。1ページ目から引き込まれて、あっという間に読了。何がこんなに面白いのか、考えながら読んだ。文章は"無駄なものを削ぎ落とした"感じではないけど、一度も飽きたりつっかえたりすることなくスラスラ読める。文章自体が、2人そのもののように、鮮やかで躍動的で生き生きとしている感じ。全身全霊で「生」を楽しむ蕗子に惹かれる私は明子寄りなんだろうか。2021/11/08