出版社内容情報
ノーベル賞作家莫言の代表作で,五つの連作中篇からなる長篇小説『赤い高粱』(原題『紅高粱家族』)の後半三篇を収録.日中戦争下の中国山東省高密県東北郷.日本軍を奇襲した祖父らだったが,その報復により村は壊滅する――.共産党軍,国民党軍,傀儡軍,秘密結社がからむ生と死,性と愛,血と土,暴力と欲望の凄烈な物語.
内容説明
ノーベル賞作家莫言の代表作で、五つの連作中篇からなる長篇小説『赤い高粱』の後半三篇を収録。日中戦争下の中国山東省高密県東北郷。日本軍を奇襲した祖父らだったが、その報復により村は壊滅する―。共産党軍、国民党軍、傀儡軍、秘密結社がからむ生と死、性と愛、血と土、暴力と欲望の凄烈な物語。
著者等紹介
莫言[バクゲン]
1955年、中国山東省生まれ。人民解放軍入隊後、執筆活動を開始。1987年に発表した『紅高粱家族』は内外の文壇で高く評価された。現代中国文学の到達点を象徴する作家である。2012年ノーベル文学賞受賞
井口晃[イノクチアキラ]
1934年、福岡生まれ。中央大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
105
『赤い高粱』の後半三章。引き続き抗日戦争を背景とする家族ドラマがより祖父にフォーカスされて語られる。その力強い感情表現は過去の挿入や対照的な性格の父の視点に立つことで引き立つ。犬の格闘も人間味溢れる描写で、仲間割れは頻々と起こる中国人同士の衝突と重なるかのよう。飛び交う「狂った犬」という単語は人間の獣性を現すモチーフなのだろう。最終章は死に施された神秘的な演出や謎めいた啓示が特徴的で、奔放独特な民族的風格を強く感じさせる。かつてのうるわしい光景と魂の輝きに想いを寄せつつ、快適追求の深刻な矛盾を抉った力作。2021/09/04
やいっち
60
表現力、描写力を実感させられた。旧日本軍の兵士による蛮行も描かれていて、日本人たる小生も忸怩たる思いは感じるが、中国に侵略し、略奪や暴行、強姦などをやった以上は、歴史の事実として受け止めざるを得ない。 2013/12/05
zirou1984
29
時系列を組み替えた構成は掘り下げようと思えばいくらでも可能でありながら、3章における過剰なまでの犬祭り、4章における葬式祭りにおけるどったんばったん大騒ぎな圧倒的テンションの高さに対し5章に地味さを感じるのは著者が飽きてしまったのかと不安になる。相も変わらず人々は殺し合い、屍肉をたかる犬も死に、高粱は幾層にも積み重なった血潮を養分に育ち続ける。赤き色彩はゆっくりと大地を、大空を、人間の思想をも染め上げていく。架空の土地を舞台としたこの物語はつまり土地こそが主役だったのだと思わせてくれる、愛すべき血便文学。2018/11/15
A.T
28
「…わたしの口も他の人が他の人の書物から映しとってきた言葉をくりかえしているのではないだろうか…「リーダースダイジェスト」になっているのではないだろうか…」というセリフが終わり頃に述べられる。1987年に発表された本作における現代人「わたし」の隔絶した世界観を表した一文。赤い高梁に描かれたアニミズムのような生死感ももはや存在しない。中国もアメリカと同じ合理主義の世界に置き換わってしまった、欧米列強もなしえなかった抗日戦争による中国共産党のレジスタンスの団結を生んだきっかけにも読める抗日戦の重大さ。2021/08/29
そふぃあ
25
赤い高粱の海で謳歌された、瑞々しい温もりを伴う生や愛の営み。 そして流された沢山の血。凄惨な死。 慟哭を抱えてなお立ち上がり、生きて命を繋ぐ姿は強く素晴らしいが、凄絶な痛ましさもある。 多くのマジックリアリズム小説がそうであるように、語られる物語は未来からの視点〈わたし〉が綴っている。 〈わたし〉のいる未来では、「生きる」ということをすべて見てきた赤い高粱はもはや残っていない。代わりに生えている雑種の紛い物は、生に実感を持てなくなったわたしたちを指しているように思う。またとない傑作だった。2021/02/07