内容説明
万引きをした過去を持ち、社会的地位のある父や祖父から、できの悪い奴と疎まれる菊男。彼は、その冷たい家庭よりも、たまたま行き会った靴屋夫婦の元に実の息子のように通うようになる。家族とはいったい何なのか。現実の家族ともう一つの家族が交錯したとき、厳格に見えた祖父、そして父も、どこか温かな場を求めて走っていたことがわかったのだった。男たちの「季節外れの運動会」の行方と、それをめぐる女たちの愛のかたち。
著者等紹介
向田邦子[ムコウダクニコ]
1929‐81年。東京生まれ。実践女子専門学校卒業後、映画雑誌記者を経て、脚本家として活躍。シナリオ作品に、『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』など。初エッセイ集『父の詫び状』で、作家としても人々を魅了。80年直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ツキノ
10
岡田准一主演のリメイク版(2005年)のDVDを観たのでこちらも。本元の映像はビデオ化していないそう。時代に合わせて設定が変わっている。菊男の「惨めな目に遭った時の心得」3つが痛々しい(270p)。じいちゃんを見て菊男が「自分の声で鳴いたり笑ったりしたくなったのだ」と悟る(356p)。附録は丹波哲郎、和田勉との座談。2018/01/01
玲
3
家族が家を抜け出して、他人のもとで本物の家族よりよっぽど家族らしい振る舞いをしている。そんな情景を想像すると寂しく悲しく虚しいのに、このシナリオはそれだけの物語にしない。人間のおかしみがあり、恥があり、開き直りがあり、勢いがあり、それらが正反対の力とうまく拮抗する。続けて読んできた向田邦子のシナリオ集も残すところあと1冊と短編集。本当に惜しい。2012/10/22
ぐうぐう
1
なんておもしろいんだろう! 味のあるキャラクター達が、ユーモアたっぷりの台詞を与えられ、家族とは何かを声高にではなく、ましてや説教としてでもなく、何気ないドラマの中でしみじみと伝えていく。昭和という時代性を目一杯漂わせながらも、疑似家族という設定でリアルな家族像を浮き彫りにするという手法は、とても現代的なスタイルであり、今日的なテーマでもある。何よりも、このシナリオを読んでいると、オリジナルのドラマが見たくなってくる。2009/10/30
のほほんなかえるさん
0
青年、菊男の話を中心としながら親子三代の人情模様を描くことの繊細さ。シリアスというよりは、どこかコミカルな明るさ、人の暖かさのあるドラマだと思った。後半、加代さんが倒れてからはなかなかに悲痛であった。2013/10/04
mieczyslaw
0
あれは何文庫だったんだろう、新潮かな?帰省先から戻るとき、ふと立ち寄た古本屋で文庫本のシナリオ版、冬の運動会を見つけた。行ったこともない街の駅で夜行列車を降り、深夜営業の喫茶店を探して、そこで完読した。 ワンクールのドラマを深夜に集中して一気に見たようなものだから、読み終わった後は頭が朦朧としたが、朝、地元に戻ってからまた全部読んでしまった。以来、思い出してはたびたび読んでいたんだが、本自体がどこかに紛れてしまった。じいちゃんと加代さんの話は読むたびに泣いちゃうね。2013/07/10