内容説明
穏やかに暮らしているはずの実家の父と母。しかし、その父に愛人がいるとわかり、四姉妹は急に色めきたった。未亡人でお花の先生をする長女綱子、主婦の次女巻子、独身の図書館員三女滝子、ボクサーと同棲する四女咲子。母のために女性との関係を清算させようと相談をするが、表向きの顔とは別に、姉妹それぞれがのっぴきならない男と女の問題を抱えている。猜疑心強い阿修羅になぞらえ女の姿を軽妙に描いた、向田作品の真骨頂。
著者等紹介
向田邦子[ムコウダクニコ]
1929‐81年。東京生まれ。実践女子専門学校卒業後、映画雑誌記者を経て、脚本家として活躍。シナリオ作品に、『寺内貫太郎一家』『冬の運動会』『あ・うん』など。初エッセイ集『父の詫び状』で、作家としても人々を魅了。80年直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ねりわさび
76
TVドラマ全7話のシナリオを書籍化した本。後年製作された小説と違い、向田邦子が直接書き記した台詞に鋭さが刻印されており印象深い。当時の準主役である男役たちが、男という性をばかにしているなどの理由からこの脚本を嫌がり、2ndシーズンから配役が代わるなどの裏話もあとがきにあり面白かったですね。2022/12/31
こうすけ
30
女性の恐ろしさというか、怖さを描いた向田邦子のシナリオ。ホームドラマの形式で、なかなかにエグい展開が繰り広げられて面白かった。 滝子「日本語めちゃくちゃなのよ」 巻子「勝又さん?」 滝子「話す順序が人とちがうのよ。『私は昨日、東京駅で、ガマ口をひろいました』」 巻子「ひろったの」 綱子「いくら入ってたの」 滝子「例!」 巻子「あ、カラ」 綱子「なんだ」 滝子「そうじゃなくて、ゼロじゃなくて、例として言ってるのよ」 ・・・こうした会話の妙を読むと、坂元裕二が向田邦子の影響を受けたのだろうと推察される。2021/02/07
サラダボウル
16
はぁ、向田さんはお手上げ。人って生きていれば何かしら無理をしている。そして誰かに無理をさせている。だから当然この世は修羅。でも揚げ餅は美味しいし、家族は大切。阿修羅だって、あっはっはって笑って生きる。さて四姉妹。七十歳父の、愛人とその小学生の息子、に直面して、賑やかにそれぞれの思いが行き交う。上手い!と思いながら楽しく頁をぐんぐん繰るが、恐ろしかよ向田さん、、、と。世間は修羅ってわかるから、尚更ね、、、。2024/12/21
ぐうぐう
9
初めて読むシナリオだと思っていたのに、四姉妹の母ふじが、夫のコートのポケットから見つけた愛人の子のミニカーを襖に叩きつけるシーンで、デジャヴの感覚に陥った。このシーンをドラマで見ていたのだろう。それほどに、女の眠れる阿修羅が起き出したこの描写はインパクト大なのだ。しかし向田邦子は、女性の怖さを描くことに主題を求めているわけではない。四姉妹の悲喜交々を通して、滑稽で情深い人間の愛すべき姿をユーモアと切実さを絶妙に配し、描ききっている。2009/06/30
桜もち 太郎
8
はじめて本格的なドラマの脚本を読んだが書き手の勢いを感じた。読みながら四人の姉妹が谷崎の細雪と重なった。「おだやかな顔が一瞬、阿修羅に変わる」。女の怖さ、悲しさがこの物語のテーマだ。浮気をすることが良いことか、悪いことか、誰が幸せになるのか、時間がたてばわかる。物語もそうだし実社会にしろ。不義の恋に落ちたことのある作者の体験もこの作品に色濃く出ているのかと思う。2016/06/01