内容説明
中国人労務者斬首に抵抗した梶は憲兵隊に捕われ、召集免除の特典を取り消された。軍隊内の過酷な秩序、初年兵に対する一方的な暴力、短い病院生活を経て梶はソ連国境に転戦。蛸壺に立てこもる日本兵にソ連戦車隊の轟音が迫る…消耗品として最前線に棄てられてなお人間であることの意味を問う戦後文学の巨編愈々佳境へ。
著者等紹介
五味川純平[ゴミカワジュンペイ]
1916‐95年。作家。中国大連に近い寒村に生まれる。33年大連一中卒業。満鉄奨学資金給付生となり、東京商科大学予科に入学するも、中退。東京外語学校英語部文科卒業。旧満州の昭和製鋼所入社。43年召集され、ソ連国境を転戦、捕虜となる。48年帰国
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
79
なんと、管理する側から管理される側へと立場が変わった主人公。そこで待っていたのは凶悪度を増した『The不合理』。信念を決して曲げない梶と『The不合理』の度重なる対決が本書の胆だと思いました。この対決が映し出す「軍隊の内在性理論とヒューマニズムが激突して生み出される何か」を世に知らしめたかった(=読者に想像してほしかった)のではないかと思いました。2020/11/01
あらたん
28
中編は軍隊編。軍隊の理不尽に晒される中で少し現実に合わせて堕落(成熟?)していく梶に親近感を覚えた。理想と現実の狭間で悩み続けるのが人間。 現代人からしてみると軍隊の中はもはやファンタジーの向こう側なのだが、人間の集団である以上、今の組織と似たようなところも多分にあったのだろう、という別の感想ももった。2023/09/24
おたま
28
上巻で満州の鉱山会社で特殊工人の斬殺に異議をとなえたために、召集免除を取り消された梶は、満州とソ連の国境のある部隊に補充兵として配属される。そこで待っていたのは、内務班における上官や古年兵たちの不合理な暴力と非人間的な扱いだった。できうる限り「人間」として抵抗を試みる梶だったが、同期の二等兵の自殺等により自分の限界も苦渋の内に感じずにはいられない。しばしば所属を変わりながら、最後に辿り着いた部隊で、上等兵となった梶は、小銃班の班長として、部下の初年兵を守るために、ついに部隊の編制変え着手を決行する。2021/02/28
檜村
12
上巻からの続き。上巻に比べて中々展開がなく読むスピードも遅くなったが内容は更に濃くなった。戦争による理不尽な社会が梶さんらを容赦無く襲い激しい苦しみに耐えながらも懸命に生きていく。しかし、これが数十年前では現実に起こっていた事実であり、先が見えない絶望の中で人間らしさを保っていた梶さんの勇姿に感銘した。次はいよいよ下巻、無事に美千子さんと再会してほしい。2017/04/05
Satoshi
10
(3部、4部)捕虜の処刑に反対した主人公は従軍回避措置を解除されて、軍人としてシベリア国境地帯に派遣される。その中でも主人公には人道と現実の中で残酷な選択を求められる。行軍訓練中に主人公が助けなかった軍人が陰湿ないじめを受けたうえに自殺する描写はやるせない。日本の敗戦が濃厚の中、ドイツ軍を打ち破ったソ連軍が迫る。赤軍との交戦は死を意味する中、家族を残した軍人たちは絶望的な状況で戦争の意味を語る。しかしながら、日本が偉大な国になったところで、市民には意味はなく、戦死した兵士は残された妻子は路頭に迷う。2023/06/01
-
- 和書
- ぼけつバリほり