出版社内容情報
吉見 義明[ヨシミ ヨシアキ]
著・文・その他
内容説明
日中戦争、アジア太平洋戦争を引き起こし、日本を崩壊させた天皇制ファシズム。その被害者とされてきた民衆がファシズムを支えていたこと、そして戦争末期の悲惨な体験から戦後デモクラシーが生まれたことを民衆が残した記録から明らかにしてゆく。従来の歴史観に根本的転換をもたらした名著、待望の文庫化。
目次
第1章 デモクラシーからファシズムへ(戦争への不安と期待;民衆の戦争;中国の戦場で)
第2章 草の根のファシズム(ファシズムの根もと;民衆の序列)
第3章 アジアの戦争(インドネシアの幻影;ビルマの流星群;フィリピンの山野で;再び中国戦線で)
第4章 戦場からのデモクラシー(ひび割れるファシズム;国家の崩壊を越えて)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイス
82
「未読を恥じる」との評が今年の『みすず』読者アンケートにあり、手に取る。ひとつ前に読んだ『ヒトラーを支持したドイツ国民』に比べて拠り所となる文献が豊富で、いかに全体主義思想が定着していったのか、という重いテーマを日独で比較しながら読み進めた。従軍記が続く後半は少し冗長だが、読み継がれるべき名著だと感じた。文庫版を出した岩波に感謝。独ナチズムや伊ファシズムとは一線を画したいという戦中日本人の国民感情や、玉音放送を聞いて去来した思いの内訳で「天皇への申し訳なさ」が極めて少なかったという統計など、興味深かった。2023/04/05
syaori
78
天皇制ファシズムを支えた構造を見てゆく本。人々が権益獲得を願いながら「国民の義務」として戦争に真面目に協力していったこと、朝鮮人やアイヌ等の差別・抑圧された人々の祖国や同胞のための戦争協力についてなど、草の根の民衆の誠実な善意が「戦争の遂行」のために組織されていった構造が手記や当時の調査などから明かされます。そして戦後の民主主義の受容は「アジアに対する「帝国」意識の持続」など、各人の戦場体験などにより多様な段階があったことが示されますが、これらは現在もなお課題として残されているのではないかと感じました。2024/01/09
nnpusnsn1945
58
民衆の戦争体験に光を当てた名著。35年前の本だが、今読んでも大いに価値がある。戦記本の引用が多く、戦場の様相について複合的に知ることができ、なおかつ、戦争体験が戦後の平和祈念に繋がっていることを証明している。矢野正美氏のルソン島の戦記は今も新装版が販売しているゆえ、手に入れたいと思う。大日本帝国内の序列も伺える。ちなみに、台湾人、朝鮮人、チャモロ人やアイヌ、ウィルタの兵士の体験も取り扱っている。後者2つのエスニックグループが登場するゴールデンカムイを読んだ人にもお勧めができる。2022/09/21
かふ
23
今の社会の状況が敗戦前の状況に似ていると思った。あいかわらず経済大国であると信じる政治家や人々。この時期に及んで新聞報道は政府のありかたをニュースとして伝えるだけ。朝ドラが笠置シヅ子のブギウギなのも景気づけという感じ。未だに日本の敗戦を信じていなかった人々なのである。あの敗戦の後はアメリカがやってきて都合よく立て直してくれた。今はどうだろう?もうアメリカからも相手にされず経済破綻していくのだろうか?そう悲観的気分なのも「草の根ファシズム」という大政翼賛的な傾向になりやすい国なのだ。2023/10/03
きゅう
15
「天皇制ファシズム」がどのように民衆に浸透していったのか、手紙、日記、従軍記などから考察した一冊。戦争によって生活が脅かされた被害者としての立場だけではなく、侵略に加担した加害者としての面に目を向け統括する内容となっている。当初は戦争に忌避感を持っていた人であっても、「国のため」「アジアの平和」などの目的でまとまり、一般市民が戦争へと駆り立てられていく様から、大きな流れに抗うことの難しさを痛感する。今の私達が同じ道をたどる可能性も大いにある中、当時の人々の体験を他人事とは思わず、大事な教訓にしなければ。2024/08/13