出版社内容情報
江戸時代の日本は「鎖国」ではなかった――著者の提唱する「海禁・華夷秩序論」のエッセンスをまとめる.
内容説明
江戸時代の日本は「鎖国」ではなく「四つの口(長崎・対馬(朝鮮)・薩摩(琉球)・松前(蝦夷地))」で世界につながり、開かれていた―著者が提起した「海禁・華夷秩序」論はさまざまな議論をよび、反発を生みながらも、従来の江戸時代のイメージを塗り替え、通説として定着してきた。著者の長年にわたる研究のエッセンスをわかりやすくまとめた待望の一冊。
目次
第1部 「鎖国」を見直す(見直される「鎖国」―現状と問題点;「鎖国」という言葉の経歴―誕生・流布・定着の歴史的意味;近世日本の国際関係の実態;東アジアのなかで息づく近世日本―「鎖国」論から「国際関係」論へ;鎖国を見直す意味―なぜ歴史は見直されるのか)
第2部 明治維新と「鎖国・開国」言説―なぜ近世日本が「鎖国」と考えられるようになったのか(前口上;はじめに―「鎖国・開国」言説ということ;近世日本の国際関係の実態;終わりに―「鎖国・開国」言説の成立と定着)
著者等紹介
荒野泰典[アラノヤスノリ]
1946年広島県生まれ。1970年東京商船大学卒業。1975年東京大学文学部国史学科卒業。1977年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂所、立教大学文学部を経て、立教大学名誉教授。近世日本対外関係史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さくらさくら
37
図書館本。江戸時代の鎖国政策を日本人は当然の事として学んできた。しかし「鎖国」との表現は適切ではなく、著者は「海禁・華夷秩序」だと提起している。最近は通説として定着してきているが、現在でも中学の歴史教科書には「鎖国」表記が存在する。この本は著者の長年の研究をわかりやすくまとめた物だ。既に詳しい方には物足りないかもしれないが、私はとても楽しく読めた。2020/08/31
さとうしん
19
日本は鎖国をしているという言説がどのような背景のもとで語られるようになったのか、それはどう評価されていたのか、その評価はどう変わったのか、日本の国際関係の実態はどのようなものだったのか、鎖国が実態に合わないとしたら開国とは一体何なのかといった、鎖国をめぐるねじれを丁寧に解きほぐす。学習指導要領での「鎖国」の扱いをめぐる変化を見ると、政治と切り離された歴史学研究はどこまで可能なのかということも考えさせられる。2020/01/08
かんがく
17
今となっては常識となっている、江戸日本は鎖国をしていなかったという論を早くから唱えていた研究。明治新政府が開国=近代化を正統化し、鎖国=旧幕府を貶める意図があったとする。歴史の捉え方について考えさせられる。これから歴史を学ぶ子供たちは良いが、既に大人になった人々の歴史観をアップデートするのはなかなか難しい。2020/03/16
アメヲトコ
7
近世日本を「鎖国」とする史観に異議を唱え続けてきた著者の仕事のエッセンスをまとめた一冊。一般公演を書き起こしたものなので、「四つの口」論や「海禁と華夷秩序」論などの要諦がわかりやすく読めます。そのぶん細かい実証などは抜きなので、詳しいところは論文でということになるでしょうか。2020/11/17
バルジ
5
近世日本の国際関係史の大家である著者が「鎖国」論をその淵源から検証し徹底的に批判する。ケンペルから始まり志筑忠雄が訳した「鎖国」であるがその後「開国」と対になる概念として、江戸幕府の現実の外交政策と遊離した概念が人口に膾炙する。江戸時代の4つの口(長崎・対馬・琉球・松前)による対外交易の歴史が「鎖国」という相反する概念と長らく共存していた事実に驚く。江戸幕府は現在の日本と台湾との関係同様、国家間となると厄介になりがちな地域とは「民間」を全面に押し出し管理していたらしい。思いの外柔軟な対外姿勢である。2022/01/17