内容説明
ラッコが駆除された。漁業に被害を与えるという理由だったが、それで増えると思った漁獲量が減った。なぜだろう?怖いクマや爆発的に増えるシカと、ほんとうに共存できるのだろうか。いま、新しい学問・保全生態学がさまざまなチャレンジを試みている。私たちが野生動物とどう関わればいいかを考える手引きとなる一冊。
目次
1章いま野生動物にこんな問題が
2章 絶滅はなぜおきるのだろう
3章 保全生態学が野生動物をまもる
4章 保全生態学のじっさい―私たちの研究から
5章 野生動物問題の解決に向けて
6章 野生動物をどう考えればいいか
著者等紹介
高槻成紀[タカツキセイキ]
1949年鳥取県生まれ。1978年東北大学大学院理学研究科修了。東京大学大学院農学生命科学研究科助教授をへて、現在、東京大学総合研究博物館助教授。理学博士。保全生態学。国内ではニホンジカ、ニホンザル、ヒグマ、ツキノワグマなど、海外ではモウコガゼルやアジアゾウを研究している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
372
副題に掲げられている通り、本書は保全生態学の入門書。しかも、あえて岩波ジュニア新書に書き下ろしているのは、未来の地球を背負う若い人たちに読んでもらい、知ってもらうため。さらに、本書の印税はスリランカの津波(2004年)被災孤児の教育支援の「ゾウさん基金」に使われるそうだ。こうした様々なところへの配慮は、まさに保全生態学の在り方を端的に表している。我々人間も、そして動物たちも(もちろん植物や昆虫たちも)単独では絶対に生きられない。相互の深く複雑な生態系の中に生きているのである。環境問題の入門書としても推薦。2021/07/24
マリリン
47
ゾウの話は視点を変えて観る事の大切さを痛感。住宅街にクマが出没、山林を食い荒らすシカ、過疎化した地域の人里を徘徊する野生動物等の話を聞き、疑問や対策はないのかと思っていたので、実情と保全生態学の観点からみた人と野生動物・植物の関連を知ることが出来た。どこまで人の手を加える事が許されるのか...という漠然とした疑問にも光を見た。「ナゲキバト」を読み何となく感じたが、生きていくのに大切な事は自然と接し、生き物や植物を好きになる事で学べるのかなと思った。モウコガゼルと小笠原諸島のヤギの話が特に興味深かった。2021/08/31
ケディーボーイ
28
「犬が好きなこととパンダを好きなこととは何がどう違うのか、恐竜の絶滅とアマミノクロウサギの絶滅とは何が違うのか、同じ野生生物なのになぜトキは守ってシカは駆除するのか」等々、具体的な事例からなぜ保全生態学が重要なのかを説明してくれる本。 一つの種が様々な要因と共に成り立っている事を再認識。 もはや人の手を加えないと絶滅を止められない種があるなら加えざるを得ない。 しかしよかれと思った事が裏目にでる事も多々ある。 そうならないためにも保全生態学を用い、多角的な視点をもって問題に取り組んでいかなくてはいけない2022/01/04
Shoko
17
熊出没のニュースをよく見る。昨年、実家の裏庭にも熊が出た。父親が趣味でする養蜂の巣箱を狙ったものらしい。部屋の中から見つけて、音を立てたら、驚いて逃げていったそう。市に連絡して電気柵をつけてもらい、外に出る時は熊鈴を鳴らしながら、という生活がしばらく続いた。「保全生態学」という学問のことを初めて知る。野生動物は長い時代を生き抜いてきた歴史的存在であり、それがこの150年の間にこれまで全く経験したことのないスピードで絶滅しており、その原因が我々人間の活動にあるということ。共存の道を探るのは人類の至上命題だ。2024/06/14
やま
15
熊の話、鹿の話、猿の話、ヤギの話は日本での話。熊は人を傷つけたりするので話題になるが、むしろ鹿のほうが被害が深刻というのは、山登りをしていてよく話を聞く。実際に鹿の背丈のところの木々がかじられたりして森の保全ができなくなっているそう。◇そして、何か一つを保護してもダメで生態全体を保護しないと意味がないというのも本当によく理解できる。ヤギの話では1頭残らず駆除したそうだ。そうしないと保全できないからと聞いて人がうかつにやったことの付けを払うことがとても大変なことだということを理解。→2021/09/10