出版社内容情報
1937年、日本軍は中国での戦線を拡大し、戦争の泥沼に突き進んだ。その一大汚点としての南京事件。殺戮・略奪・強姦の蛮行はいかなるプロセスで生じ、推移し、どんな結果を招いたのか。日中全面戦争にいたる過程、虐殺の被害の実相、推定死者数等を旧版より精緻に明らかにし、事件の全貌を多角的に浮かび上がらせる増補決定版。
【目次】
新版に寄せて
序 二つの裁判で裁かれた南京事件
Ⅰ 日中全面戦争へ
Ⅱ 海軍航空隊の戦略爆撃
Ⅲ 中支那方面軍、独断専行で南京へ
Ⅳ 近郊農村から始まった虐殺
Ⅴ 南京占領――徹底した包囲殲滅戦
Ⅵ 陸海両軍による「残敵掃蕩」
Ⅶ 入城式のための大殺戮
Ⅷ 陸の孤島での犯罪と抵抗
Ⅸ 南京事件の全体像――犠牲者総数を推定する
結びにかえて――いま問われているのは何か
主な参考・引用文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
55
秦郁彦とは立場の違いを指摘されることの多い著者で、本書でも例えば大山事件海軍陰謀説を主張(他の研究者の同意はほぼ読んだことがない)したりしているが、事件の基本的な構造は両者ともほぼ同じと感じた。軍中央の制止を無視して己の功名心に駆られて突き進んだ現地軍司令官の下で、上海戦で多くの犠牲を払いつつ、休むまもなく兵站補給も不十分なまま戦い続けた兵士達が、この蛮行を引きおこしていく。言うまでもなく当時の日本にはびこるアジア人蔑視の意識や、兵の糧食すら用意せず、捕虜を「処分」するしか途のない軍の恐ろしさを痛感した。2025/08/09
さとうしん
21
南京事件の諸相を当事者の生き残りや当時南京に在住していた外国人の証言など、多方面からたどる。被害のありさまはただただ「酷い」のひとこと。よく話題に出る当時の南京の人口や殺害の規模についても詳しい論証がある。当然人口は20万で収まるはずもなく、虐殺・強姦なども南京近郊の農村にまで広がっていた。また、近年でも日本側の心ない「反論」が当事者に対する二次加害を引き起こしたことや、南京事件に関連してアメリカの砲艦パナイ号撃沈事件が真珠湾奇襲の前哨とも言うべき報復感情を呼び起こしたという点に触れている。2025/08/04
で
1
アジアの国々の教科書の違いを研究した記事を読んだことがある。どうやら日本だけが近代の戦争について異なる知識を持つらしい。私は日本生まれ日本育ちで、自分含めて周囲の人もほとんど日本人だ。だからこそ日本が他国からどう思われているか原型のまま認識したい。知識のベースに事実を置きたい。事実を知った上で他者や世界と関わりたい。だれのことも踏みにじりたくない。2025/08/08