出版社内容情報
生態系の頂点に立ち、近づきがたい野生動物ヒグマ。ヒトはいつどのような進化をたどってユーラシア大陸でヒグマと出会い、なぜ文化的に共存することになったのか? ヒグマの動物学的・生態学的な特徴から説き起こし、時代と地域を超えた進化上の展開を追い、クマ送り儀礼に見る人間と自然との豊饒な文化の意味にまで迫る。
内容説明
北半球に広く分布し、生態系の頂点に立ち、「山の神」と崇められてきた、近づきがたい野生動物ヒグマ。ヒトとヒグマが辿った進化上の運命的な出会いの謎に迫り、クマ送り儀礼に見る、人間と自然との豊饒な文化の意味と可能性を問う。北海道大学の名物授業「ヒグマ学入門」を担った生物学者が、進化と文化の稀有な世界に誘う。
目次
第1章 ヒグマとはどんな動物か
第2章 ヒグマは生態系でどんな役割を果たしているのか
第3章 ヒグマはどのようにしてヒトと出会ったのか
第4章 狩猟からクマ送り儀礼へ
第5章 ヒグマの夢は何を意味するのか
終章 ヒグマ文化論―人間と自然の共存を考える
著者等紹介
増田隆一[マスダリュウイチ]
1960年岐阜県生まれ。1989年北海道大学大学院理学研究科博士後期課程修了(理学博士)。アメリカ国立がん研究所研究員、北海道大学教授などを経て、現在―北海道大学大学院理学研究院特任教授、北海道大学名誉教授。専門―動物地理学、分子系統進化学。2019年日本動物学会賞、日本哺乳類学会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
119
ヒグマによる獣害報道はよく聞くが、ヒグマ自体については何も知らなかった。ヒグマはどんな生態系を持ち、どのように人の文化や生活に関わってきたのかあまりに無知だったと思い知る。ヒグマの冬眠と目覚めが死と再生の象徴と捉えられ、天上界と地上界を行き来する動物と見なされた。この結果、アイヌのクマ送りの儀礼をはじめ北半球でクマを主題とする口承文芸が発達したという。ここまで人と深い精神的関係を結ぶ生き物は、犬猫や馬ならともかく野生動物では他にない。同じ国に生きるものとして、もっと日本人はヒグマの実態を知らねばならない。2025/05/25
フク
16
#読了 クマ送りの儀式はユーラシアの北部で共通していると言うことが興味深かった。 〈ヒグマを単に危険で怖い動物としてとらえるのではなく、自然現象そのもの、生態系の一部としてとらえることが大切である〉 図書館2025/04/28
kuukazoo
14
著者は動物地理学、分子系統進化学が専門で長年北海道大学で「ヒグマ学入門」の授業を担当。「ヒグマは、ヒトとの物理的距離こそ遠くありたい動物だが、精神文化的には極めて近くて深遠な動物」とはなるほどである。動物学的分類、生態系における役割、ミトコンドリアDNA分析による地理的分布、大陸移動の歴史、古代人類との関わりから、クマ送り儀礼や仔熊を介した異文化交流や象徴としての熊など文化面まで幅広く解説。オホーツク文化についてもっと知りたくなった。専門外の部分は想像が豊かすぎたりざっくりな感じだがそれなりに興味深い。2025/04/29
🍭
6
489(哺乳類>489.5食肉目)図書館本。岩波書店2025年3月19日発行。北海道大学で開講されていた「ヒグマ学」という授業を担当していた教授たちの一人による「ヒグマノート」とでもいうべき著作。ヒグマと人類の関わりからヒト文化とヒグマの交流を考察している。申し訳ないけれど一番興味が湧いたのは第5章ヒグマの夢何を意味するか pp. 128-161 のトピックだった。特にpp. 158-161 の宇蘭盆の「精霊流し」「おしょろ様」などの記述部分がよかった。日本のお盆文化は今どの程度生きているのだろうか。2025/04/22
お抹茶
4
ヒグマは森林生態系の多様性を維持することに繋がり,植物食が中心だが,北海道では急増しているエゾシカを捕食することで肉食性に回帰し,家畜を襲うことが懸念される。ヒグマは哺乳類の中で最も広い分布域を持つ一種で,ユーラシアと北米の亜寒帯に広く分布し,北海道には大陸で分岐した三つの系統が,道南,道東,道北―道央系統の順でやってきた。季節を通したヒグマの行動の大きな変化と毎年の反復である冬眠から目覚めたヒグマの再生・復活と,冬眠という生命の静寂は,季節の移り変わりが明瞭な亜寒帯の人々に深い神秘性を与えたと言える。2025/04/13